いわゆる「二重ローン問題」を回避し、東日本大震災で被災した事業者などの再生を支援するための機構が二つもできそうであることが、被災地を揺るがしている。
そもそも二重ローンとは、震災前に借り入れがあった事業者が、被災した事業を再生するために新たな融資を受ける必要が生じ、二重の債務を負う状態のことをいう。
しかし、事業を行えず実質債務超過になっている事業者に対し、金融機関は新たな融資に応じ切れないのも現実だ。二重の債務を負ってまで事業を再生する気にはなれないという事業者の心情もある。
これらの問題を抱えていては地域経済は再生できないとして設立されようとしているのが、旧債務を金融機関から買い取り元利返済を一時凍結する二つの機構なのだ。
一つは政府案の産業復興機構。しかしこれは地域の民間金融機関も出資する“ファンド”であるため、対象は再生可能性の高い事業者に限られる。しかも旧債務の返済猶予も5年と短く、大部分の事業者が対象から漏れると現実味のなさが指摘されていた。
そこで浮上したのが野党の東日本大震災事業者再生支援機構法案だ。ファンド形式を取らない国の全額出資の機構で、旧債務の返済猶予も15年と長いため、対象者が大幅に広がると期待される。
しかし、「返済不能な債権が増大してしまう可能性もあり、大きな財政負担になりかねない」(東北の地方銀行関係者)と懸念の声もある。
二重ローン問題は、債権の買い取り価格などで金融機関と個別に協議する必要もあり、個々の事業者の解決にはまだ多くの壁が立ちはだかる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)