「プロ野球の未来は暗いに決まってる」

 次のグラフを見てください。これは、1970年と2010年におけるプロ野球ファンの年齢構成を表わすグラフです。無作為抽出で実施したアンケートに、自分はプロ野球ファンだと回答した人を年齢別に集計して、その割合をグラフにしたものだと思ってください。

プロ野球界の未来はとても明るい!?

 なぜ「思ってください」と書いているかというと、これは架空のデータだからです。いかにもありそうなデータですが、ここでは「仮にこういう情報があったら」という前提で考えてみましょう。まずはこのデータを見て、みなさんが「考えたこと」を書き出してみてください。データを見て“わかること”や“言えること”、さらに“考えうること”を、できるだけたくさん書いてみてください。

◇この情報からわかること、言えること

◆?

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 いかがでしょう?どんなことを考えられたでしょうか? ちきりんの知人のAさんが、同じグラフを見て「考えたこと」を次のように書いてくれました。


◇この情報からわかること、言えること

◆プロ野球ファンの高齢化が進んでいる。

◆このままでは日本のプロ野球界の未来は暗い。

◆プロ野球界は若いファンを増やすための努力をしていない。今後はそういった努力が必要だ。

◆プロ野球は時代遅れになっている。

◆いい選手が大リーグに流出しすぎて、日本の野球はおもしろくなくなっている(のではないか?)。  

 なるほど。どれももっともらしく聞こえますね。

 ただ私には、これが「図のグラフを見て、Aさんが自分の頭で考えた」ことだとは思えません。むしろAさんはこれらを「グラフを見る前から知っていた」のではないか、と思えるのです。

 もしAさんがこれらの意見を、あのグラフを見なくても言えたのであれば、それは「図の情報を見たうえでの思考の結果」ではなく、Aさんがもともともっていた「知識」です。

 ここで、先ほど書いていただいたご自身の回答をもう一度見てください。そこに書かれているのは、みなさんが図を見て「考えた」ことでしょうか?それとも、図を見る前から「知っていた」ことでしょうか? 実際のところ日本では、多くの人が(図を見るまでもなく)プロ野球ファンが高齢化していること、巨人戦の視聴率でさえ大幅に下がっていることなどを知っています。  

「知っていること」は、通常「知識」と呼ばれており、「情報に基づく思考の結果」とは異なるのです。