和嶋医師はそう言うと、「口を大きく開けて、指3本を縦に入れてみてください」と指導した。

 指3本というと、どうってことないと思うかもしれないが、知香子さんにとってはそこまで大きく開くのは大変なことだった。

 細かい注意点等を教わりながら、なんとか指3本分、口を開けられるようになり、以降毎日起きている間、1時間に1回ずつ続けた。1時間に1回というのは、伸ばす回数を増やすという意味と、1時間に1回行うことで、無意識に歯をくいしばっているような人に、気をつけてもらう意味とがある。

 並行して、温湿布と運動も行ったところ、なんと、あれほど苦しんだ「歯痛」はみるみる軽減し、1ヵ月後にはケロッと治ってしまった。

 それは喜ばしかったが、知香子さんは怒りが収まらない。もちろん、和嶋医師以前に受診した歯科クリニックに対してだ。

「一体、約1年間にわたる私の『治療』はなんだったんでしょう。抜歯までしたんですよ。受診した歯医者で、治療できないまでも、『もしかしたら非歯原因性歯痛かも』と一言、教えてもらえさえしたら、あんなに苦しむことはなかったのに。歯医者さんにはもっと勉強してほしいです」

【プロフィール】
和嶋浩一(わじま・こういち)
慶應義塾大学病院歯科口腔外科学教室非常勤講師、口腔顔面痛指導医、専門医。1978年 神奈川歯科大学歯学部卒業、1978年 慶應義塾大学病院研修医(歯科・口腔外科)、1980年 慶應義塾大学助手(医学部歯科・口腔外科学教室)を経て、1995年より2017年まで 慶應義塾大学専任講師(医学部歯科・口腔外科学教室)