サービスロボット市場における日本のシェア

サービスロボット市場で、米中に大きく後れを取る日本、AIの前向きで倫理的な運用を

 2025年の夏、中国・北京で世界初の人型ロボット運動会が開催された。世界16カ国から280チームが参加し、徒競走、ボクシング、サッカーなど全26種目で競い合った。競技では思わぬハプニングもあって会場は沸き、結果は20種目で中国が優勝した。

 生成AIの進化は目覚ましく、AIは自律性を高めながらフィジカル領域へと踏み出している。産業用ロボット市場は日本が65.9%を占めるものの低下傾向にあり、サービスロボット市場では日本のシェアは11.7%と米国(35.5%)や中国(33.3%)に大きく水をあけられている。

 経済産業省によれば、人型を含む多用途ロボット市場の規模は40年までに約60兆円に達する見込みだ。現状のままでは市場の過半を中国が占める可能性があり、同省は25年8月にAIロボティクス検討会を設置。26年3月末までに新たな戦略を策定する方針だ。

 この先、AIはコンピューター内から飛び出し、身体を伴って社会へと溶け込んでいく。自動車業界で話題のEV(電気自動車)や自動運転は、米中では移動支援ロボットという概念に近づいている。家事ロボットも早々に商品化され、市場開拓やデータ収集に貪欲だ。

 ロボット運動会について「何の役に立つのか」「どう稼ぐのか」と問いがちだが、そうした発想からはイノベーションは生まれない。ペットロボットaibo(アイボ)や二足歩行ロボットASIMO(アシモ)が注目を集めた時代、日本はもっと自由に未来を描いていたはずだ。人手不足の介護などの現場を支えるロボットや、危険な災害現場で救助活動を担うロボットなど、夢はたくさんあるはずだ。

 やがて人型ロボットと人間の間に感情が芽生えると、ロボットに人格や人権を認めるべきだという論争も起きるだろう。ロボットとの共生という未来像も、すでに垣間見えている。

 ただし、ロボット同士で勝敗を争うのは、あくまで競技場内だけに限られるべきだ。技術が人に寄り添い社会を豊かにするのか、それともロボットが武器を手に対立へ向かうのか。AIが加速度的に進化する今、私たちはその行方を左右する局面にある。未来を誤らぬためにも、今こそ技術活用の冷静な選択が求められている。

(行政システム顧問 蓼科情報主任研究員 榎並利博)