メディアの力を活用する

 チームにとって集客が第一ではあるが、何と言っても対象とする地域はあまりに広い。メディアの力を借りて、存在をアピールすることも必須だった。

 媒体はラジオ、新聞、テレビ。特に最初はラジオの協力を大いに得た。HBCラジオ(北海道放送)には放映権料を無料にして、試合を放送してもらった。

 ラジオ放送は、夜のタクシーで効力を発揮する。乗客は、ラジオから流れる試合中継を聞いて運転手と共に一喜一憂する。少し前まで、タクシー内で交わされる野球の話はもっぱら巨人戦についてだったが、ほどなくそれは、ファイターズの話題にとってかわるようになった。

 テレビに対しては、放映権料のシステムを変則的にした。8本までは定価で買ってもらうが、9~10本の場合は50万円引き。10本を超えると半額とした。これは広い北海道の隅々まで、試合が放映されるための手法だ。北海道はCSやケーブルテレビの普及率が本州よりも低いので、地上波放送を多くすることが必要と考えた。少しでも多くの人々が野球を見る機会を作りたい、と考えたのだ。

 実際に住んでみると分かるのだが、北海道はやはり本州に比べて娯楽が少ない。土地があまりに広大であることが最大の要因であろう。都会から離れた場所では、野球中継が住民の方々に大きな楽しみをもたらすに違いない、という思いがあった。

 その予測は正解だった。道内のどの局でも、野球中継の視聴率は16%前後となったのだ。全国ネットのジャイアンツ戦が8%程度なのを思えば、驚異的な数字と言っていいのではないだろうか。

 選手のメディア露出も積極的に行った。北海道には地方局が5局あるのだが、そのすべてがファイターズの応援番組を持つことになった。試合情報はもちろん、練習風景や選手のインタビューもふんだんに盛り込んだ番組内容となっている。

 ちなみに我が家では、ほどなく妻がこのすべてを視聴するようになった。夜中の番組もすべて録画予約を行う熱心さで。我が家にも一人、ファイターズファンが生まれたわけだ。これも我々のたゆまざる努力の結果、と言えるかもしれない。
 

(本連載は、藤井純一著『日本一のチームをつくる』から抜粋、改稿したものです。)
 


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