すべての仕事が「地域密着」につながる

 私が社員の意識改革とコスト管理で成し遂げたかったのは、親会社に依存しない自立した組織だ。

 では、自立した組織が目指す先には、何があるのだろうか。それが地域貢献である。地域に根差し、地元のファンに愛されることによって業績を上げていくこと――そう、地域密着が最大の目標なのである。組織の「内側」をこうして堅固なものにしてきたのは、地域という「外側」に向かって働きかけるためだった。

 そう考えると、移転直後から札幌ドームに多くの人々が足を運んでくれたのは、誠に有難いことだった。はじめて札幌ドームを訪れたときの印象は忘れ難い。私は客席の熱い応援に、身震いするような感動を覚えた。ファイターズが道民に歓迎されていることを肌で感じた瞬間だった。

 ファイターズが北海道の人々に暖かく迎えていただくことができたのは、多分に「ついていた」部分が大きい。ほかでもない、「北海道」という場所に来たことが大きな幸運だったのだ。地域密着を成功させるには、何よりもまず「土壌」が必要だ。対象となるべき地域が存在すること――これが、我々の努力以上に不可欠な大前提である。

 地域密着を行おうとしても、どうしてもうまくいかないこともある。それは、その場所が都市であった場合だ。都市には、地域と言う概念が育ちにくい。地縁も薄くなりがちだ。地元に幾許かの愛情はあるにせよ、やはり地方の人々のそれよりは希薄だ。だから地元にスポーツチームがあっても、「私たちのチーム」と言う意識を持ってもらうのは難しい。

 では北海道はどうか。北海道もまた札幌という大都市を擁し、様々な土地からやってきた人々が混在する場所である。しかしそのメンタリティは、東京とは大きく違う。

 北海道は広く、そこにはたくさんの町がある。札幌、釧路、帯広、旭川、ほかにも数多くの町がそれぞれ別のカラーを持っている。しかしどこの市民も、「北海道民である」という強い意識を共有している。つまり北海道は広大な土地でありながら、そこに住む人々が一体感を持っている――言うなれば「巨大な地域」とも呼べる、希有な場所なのだ。

 こうして我々は、願ってもない土壌を得た。あとは、私たちが住民に愛されさえすればよい。住民が北海道を愛するのと同じようにファイターズを愛してもらうことが目的となる。