ネット生命保険の先駆け、ネクスティア生命が先月、ネット生保業界初の値上げに踏み切った。
2008年に同社が先陣を切って以来、ネット生保への参入が相次ぎ、各社は熾烈な価格競争を繰り広げた。だが、ネクスティアの値上げに、業界内からは「値下げ競争が、ほぼ底を打ったことの表れ」(ネット生保首脳)との声も聞こえる。
ネクスティアは10月2日以降の契約から、医療保険(定期型)「カチッと医療」と、死亡・高度障害時に家族の毎月の生活資金を確保する収入保障保険「カチッと収入保障」で商品改定を実施、新たな約款・保険料の適用を始めた。
この改定により、「カチッと医療」で、例えば、契約年齢30歳(入院給付金1万円、手術給付金が入院給付金日額の10倍)の新規契約者の場合、月額1600円から1680円へと80円の値上がりとなる。また、「カチッと収入保障」では、契約年齢30歳の男性(年金月額10万円、60歳満了契約)の場合、月額2890円から3240円へと変わり、その差は350円だ。
一方、改定では「カチッと医療」の手術給付金の保障範囲を、それまでの88種類の手術から、公的医療保険対象の手術全般に広げるなど保障の拡充を行った。
同社は「改定後も、ネクスティアは生保業界の最安値グループ。値上げしたが、前向きな改定だ。金融庁から手術給付金の保障範囲を広げるよう要望を受けたことも改定の背景」と説明する。
だが、別のネット生保首脳は「ネット生保の最大の魅力は低価格。ネクスティアは今後、新規契約数が伸び悩むのではないか」と声を潜める。実際、オリックス生命が先月末に行った「保険加入の決め手」に関する調査では、「保障内容」に次ぐ第2位に「保険料の安さ」がほぼ拮抗する形で選ばれている。
とは言え、別のネット生保社員は「ネクスティアのように値上げはなくてもこれ以上、安くすることは難しい」と話す。その背景にあるのは、安くない営業コストだ。
「世間には、ネット生保は営業コストが安いので保険料も安いというイメージがあるが、それは間違い。生保レディに払うか、テレビCMなど広告料に払うかの違い」と前出のネット生保首脳は言う。
実際、ネクスティアの新規個人契約1件当たりの営業コスト(営業活動費と営業管理費の合算)は10年度、約8万6000円だ。これは、大手生保と比較すれば半分以下だが、通販・代理店系よりも1.5倍近く高い。
なかでも「ネクスティアはネット専業。他の販売チャネルを持つネット生保と比較して、他部署の収益で埋め合わせできない」(別のネット生保社員)との指摘も。
価格破壊とも言える価格攻勢で生保の常識を覆し続けたネット生保。だが、低価格競争が限界に近づき、新規参入も続くなか、今後は本格的なサバイバル・レースが幕を開けそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 宮原啓彰)