シャープの60インチの超大型の液晶テレビが799.99ドル(6万1600円)、サムスンは55インチを999.99ドル(7万7000円)で応戦する──。世界最大規模のテレビ市場を抱える米国で、家電メーカーが目を覆いたくなるような、衝撃的な「値札」が出回ることになりそうだ。
今週の11月25日、米国では感謝祭の翌日に当たる金曜日を「ブラックフライデー」と呼び、クリスマス商戦の火ぶたが切られる。小売り店が軒並み黒字になるので「ブラック」というわけだ。ベストバイなど大手家電量販店には、家族連れが押し寄せて、薄型テレビなら年間需要の3割近くを年末までに売り切ってしまう。
例年になく価格下落が激しいのは、日本の家電メーカーが「高付加価値が出せる」「値崩れが少ない」として、力を入れると主張してきた50インチ以上の大型や超大型のカテゴリーだ。日本国内の店頭価格では1台当たり十数万~30万円以上するサイズが、本誌の調査では、わずか4万~7万円台で“投げ売り”される(上表参照)。
暴落の背景には、個人消費が急激に冷え込む欧州や、エコポイント制度が終わって縮小する日本を除くと、大量に薄型テレビをさばけるのは北米市場のみという事情がある。ディスプレイサーチによると2011年上半期で、ソニーは薄型テレビ(液晶、プラズマ)の全売上高の20.4%、パナソニックは23.4%、シャープは17%を同市場に頼る。3社合計で6000億円近い売上高と予想され、「捨てたくても、捨てられない」のが実情だ。
しかし、いよいよ日本のテレビメーカーが脱落するという指摘が上がっている。
一つ目は、中国政府が推し進めてきた液晶テレビ工場が大量生産を始めるため、「来年2000万台以上が余剰生産になり、米国に(格安商品が)流れ込むかもしれない」(大手電機メーカー幹部)。液晶テレビに詳しいテクノ・システム・リサーチの林秀介氏によると、すでに量産体制に入っている新型工場もあり、「来年から生産量が急激に上がる」という状況は間違いなさそうだ。
二つ目は、米国の大手家電量販チェーンが、テレビの収益性低下により、取り扱う機種モデルを絞りにかかっていること。現地では3割近いシェアを持つサムスン製こそ“プレミアム商品”で、「日本製の回転率が悪いと見なされたら、店頭からなくなる」(業界関係者)という状況にある。
日本メーカーがアピールしてきた「3D映像」やインターネットに接続するソニーの「グーグルテレビ」など、価格下落を止める“ネタ”も打ち止め。年末商戦のときめきは、消費者だけのものとなりそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義)