最近、講演に呼ばれる機会が増えた。マイケル・サンデル教授の白熱教室ではないが、せっかくの機会なので、聴衆の皆さんにもできるだけ「国語ではなく、算数で」考えてもらおうと思って、会場に質問を投げかけては挙手してもらうよう努めている。

『景気が良くなければ、税金が増えるので、増税は必要ない』
というテーゼは正しいか

「『景気が良くなれば、法人税や所得税などの税収が増えるので、まず景気対策が必要であって、増税は必要がない、あるいは増税はそのあとで考えればいい』という意見について、どう思いますか。この意見に賛成の人、挙手してください」という質問を投げかけると、ほとんどの会場で大半の人が手を挙げる。

 さもありなんと思う。国語で考えれば、上記の意見は一般論としては正しいように思われるからだ。

 そこで、続いて次の質問を投げかける。「現在の政府(野田政権)が、戦後、最優秀の政府だと仮定して、次々と実効性の高い経済対策を実行に移し、わが国の景気が相当程度回復して、再び高度成長軌道に乗ったと仮定してください。そこで質問です。バブルのピークであった1989年、すなわち、日経平均株価が4万円直前まで上昇し、東京の地価でアメリカ全土が購入できた89年を上回ることができると思う人は挙手してください」と。

 すると、手を挙げる人は誰もいない。すなわち、ほとんどの人は、仮にわが国の景気が良くなったとしても、バブル期を再び超えることはあり得ないと達観しているようなのだ。

「バブルのピーク時の税収を知っている人はいますか?(89年の好景気を反映した)90年が60兆円で、実は60兆円を超えたのは、実はただの一回きりです。要するに、皆さんは、バブル期を超える税収を得ることは不可能だと考えているわけですね。では、好景気が戻ってきたと仮定した時の、わが国の税収はいくらくらいが期待できますか?」このように問いかけると、現在の税収41兆円に対して、最大でも50兆円~55兆円くらいではないかという感触が会場から寄せられる。

 すなわち、いくらわが国の景気が回復したとしても、そのことによって得られる税収は、最大値でも50兆円~55兆円くらいではないかというのが、市民の普通の感覚なのだ。