結果として、自宅で療養する末期がん患者への訪問が増えた。クリニックは葛飾区にあり、訪問先は足立区、墨田区、江戸川区にも及ぶ。江戸川区で5年半前に「わたクリニック船堀」を開設した。

「うちの診療所では、医師が元の病院の専門医と頻繁に連絡を取りながら対応しています。病院の医療連携室とのパイプも太いです。いずれも患者さんが繋いでくれたものです。患者さん一人ひとりの生活感や価値観に合わせて真剣に大切に向き合ってきています」

 終末期のケアには訪問看護師との連携は無論のこと、同クリニックでは緩和薬物療法認定薬剤師の資格を持つ薬剤師の存在が大きい。在宅緩和ケアに徹した高度の専門職で、調剤はしない。しかも常勤である。

「医師でも薬の選択や投与量に判断を下しかねる時もありますが、薬物療法のプロがいることでとても心強い。病院と同じ緩和医療をするのが礼儀だと思います」

 表情豊か、フランクな語り口。尊大なそぶりが全くない。患者宅からの電話は真っ先に渡邉さんに通じる。24時間いつでも連絡に応じるのが在宅療養支援診療所ではあるが、同クリニックには常勤医は9人いる。それでも最初のコールを受け持つ。

「患者さんから、話しやすいとよく言われます。先生が来ると元気が出る、ともね。私はもともと人にとっても興味があるからでしょう。人が生きるってどういうことか、よく考えます。その人の人生を丸ごと見てみたいという気持ちですね」

クリニックは葛飾区柴又のビルの1階に

 大学の医学部に入学したのは30歳を超えていた。高校の教師をしていたが、以前から抱いていた医師への道を選択したのは社会人経験を積んでからだ。最初の大学ではアルバイトに勤しむ苦学生だった。

「人はいつ亡くなるか分からない。患者も医師も同じ。今を生きている人間です。当たり前の普通の日常生活が大事だと感じています。そんな思いで毎日の診療にあたっています」

 診療所は小さな3階建てビルの1階。看板もつつましく、リーダーの人柄を表しているようだった。

(福祉ジャーナリスト 浅川澄一)