社会の抱える様々な問題を解決するために事業を興す社会起業家たち。その活躍のフィールドは介護、教育、医療、貧困対策など幅広い。ビル・ストリックランド氏は1970年代から米ペンシルバニア州ピッツバーグのスラム街で、恵まれない子ども達に教育機会を提供し、社会復帰を支援する活動を続ける社会起業家の草分け的存在だ。世界中の社会起業家たちのロールモデルでもある。五井平和財団の「五井平和賞」の受賞で来日し、東日本大震災の被災地を視察したほか、日本の若手社会起業家や企業経営者とも交流を深めた。ストリックランド氏の目には、いまの日本社会はどのように映ったのだろうか。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 片田江康男)
「H、O、P、E」――
いまの被災地に必要なもの
――今回の来日で東日本大震災の被災地を訪問したというが、どのような印象を受けたか。また社会起業家として被災地に対して何ができそうか。
1947年米国生まれ。ペンシルバニア州ピッツバーグのスラム街で育つが、高校時代に陶芸と出会い、自信と生きがいを見つける。その経験をもとに大学在学中に貧困地域の落ちこぼれの子ども達を支援するため、陶芸、写真、絵画の教室を主宰。地域社会の活性化に貢献する。マッカーサー財団から「天才賞」を授与されたほか、ハーバード大学教育大学院講師、全米芸術基金委員などを歴任。2010年よりオバマ大統領に任命され、ホワイトハウス評議委員。2011年五井平和財団の五井平和賞を受賞。著書に『あなたには夢がある』(英治出版)。
Photo by Masato Kato
被災地の様子には、災害規模の大きさや甚大さにとにかく圧倒された。
実際にどのような支援ができるのか、どのような形で被災地の支援ができるのか、具体的なことを言うには早すぎるが、支援が必要だということはよくわかった。
ただ、被災地で教育関係者や漁業関係者、私のような社会起業家の皆さんと話し、あれだけ悲劇的な状況に直面したにもかかわらず、多くの人が復興しようという強い気持ちを持っていること、また実際に復興の兆しがあることに感銘を受けた。
――ストリックランド氏は地元ピッツバーグで、地域コミュニティの復活のために陶芸や写真、絵画を教える「マンチェスター・クラフトメンズギルド」を作った。東北にも同様の施設を作って復興の手助けをすることもありえるのか。
私がピッツバーグにつくった施設の基本的な役割は職業訓練だ。小さい頃から教育に恵まれず仕事に就けなかった人々に社会復帰の機会を与えると同時に、将来に対する希望を持ってもらうことを目指している。
具体的には陶芸、料理、医療技術、化学、生物学、製薬、園芸などの技術を、実際にその職に就いている人たちに教えてもらう。若者たちはスキルを伸ばし、自信と希望を持つことができる。高校で落ちこぼれてしまい、進学を諦めていた生徒が、センターでの活動を通して将来への希望を見つけ、再び大学進学を目指すようになる。