新米コンサルタントが犯しがちな間違いの中で、先輩コンサルタントが最も恐れる悪夢とはなんだろうか。このことは『戦略コンサルティング・ファームの面接攻略法』においても、ポイントとなっている。

 私の本棚には、アメリカの著名な起業家であるドニー・ドイチェによる印象的な題名の本、『間違いはよく犯すが、けっして迷いはしない(Often Wrong,Never in Doubt)』がある。この本のタイトルはビジネスにおける一種の哲学を表していると言えるが、戦略コンサルタントのビジネスにはこのままの表現が必ずしも当てはまらない。

 このタイトルを、戦略コンサルタントにとってより的確なものに置き換えるとすれば、次のようになる。

「往々にして正しくとも、けっして事実に基づく根拠なくして判断してはならない(Often Right,but Never Without Factual Justification)」

 コンサルティング業務では常に、言葉を慎重に選んで用いなければならない。どんな発言であれ、その正しさを裏付ける客観的な根拠が求められるからだ。ある行動を起こすべきだと提案するときには、その根拠をクライアントにきちんと説明できなければならない。

 もし、あなたがはっきりと答えられないような質問をクライアントがしてきた場合には、「その質問に答えるためには、根拠となる客観的事実を持ち合わせていません」ときっぱり伝えるべきである。また、クライアントがあなたの個人的な意見を求めてきたときには、「……はよい考えだと思いますが、まだ確実にそう言えるまでの客観的事実がありません」と明確に念を押す必要がある。

 戦略コンサルタントが発する言葉は、すべて事実によって裏付けられるものでなければならず、また、クライアントには自信を持って伝えなければならない。質問に対する答えの根拠がない場合には、「わかりません」とはっきり言うべきである。

 あまりにも保守的すぎるのではないかという意見もあるだろうが、これは重要なことだ。コンサルタントがある発言をすれば、それはコンサルタント個人の考えのみならず、コンサルティング・ファーム全体としての見解を示すことになるからである。

 仮にあなたがBCGのコンサルタントで、ある行動を取るべきだとクライアントに提案したとしよう。このとき、クライアントはあなた個人ではなく、BCGがそうすべきだと考えていると受け取るのだ。



 一流コンサルティング・ファームのパートナーにとって最大の悪夢と言える出来事は、新米のコンサルタントが口を滑らせて、まだ会社として客観的事実による裏付けを取っていない発言をしてしまうことである。これは、最終的にパートナーの顔をつぶすことになる(ちなみにパートナーにとって2番目の悪夢は、新米のコンサルタントがあまりに無能で、クライアントを怒らせてしまったときだ)。