得体の知れないエネルギーを持つ男
会話から取り残された営業マンは、目を閉じて寝たふりをしていた。
それを見ていると、なんだか気の毒だった。
「じゃ、顔剃りしますね」
オレは絶妙のタイミングでバーバーチェアを倒し、営業マンを救うことにした。
これで、営業マンは男の話につき合わなければいけない理由がなくなったのだ。
オレは、温めた蒸しタオルを営業マンの顔にかけて髭を温め、顔剃りを始めた。
――経営コンサルタントというのは何でも知っているんだな。
理容師をしているといろんな人に毎日出会うから、人物の目利きには自信があったが、男はどこかとらえどころがなかった。
知識も豊富で説明もわかりやすく、頭がいいんだろうなとは思ったが、経済的に恵まれている気配は全くしなかった。
高そうなスーツに高級腕時計をしている営業マンのほうが、よっぽど金を持っているように見えるが、隣の男には、金よりも何か得体の知れないエネルギーのようなものを感じた。
(つづく)
作家、映画監督、経営コンサルタント 1966年、京都生まれ。京都大学経済学部卒業。(株)電通を経て渡米し、カリフォルニア大学バークレー校にて経営大学院にて修士号(MBA)取得。シリコンバレーで音声認識技術を用いた言語能力試験などを行うベンチャー企業に参加。大学院在学中にアソシエートプロデューサーとして参加した短編映画『おはぎ』が、2001年カンヌ国際映画祭短編部門でパルムドール(最高賞)受賞。帰国後、経営コンサルティング会社を経て、(株)Good Peopleを設立。キャラクターの世界観構築など、経営学や経済学だけでなく、物語生成の理論、創造技法や学習技法を駆使した経営支援、経営者教育を手がけている。著書は、『プロアクティブ学習革命』(イースト・プレス)、『次世代へ送る〈絵解き〉社会原理序説』(dZERO)ほか。映画は、初監督作品の長編ドキュメンタリー『AGANAI』の公開に向けて奮闘中。京都在住。