偉大なアイデアはいつもシンプル
そんな思いが浮かんだ瞬間、「人間、これをやるしかない、と腹を決めて当たればなんとかなる。そんなもんや」と立三さんはボソリと言った。
心を読みきったような言葉にオレはギクッとした。
そしてマッサージを始めた。
「どんなものにも構造というものがある」
「はい」
「ビジネスも『構造』『制約』『仕組み』で理解すると、チャンスが見えてくる」
「『構造』『制約』『仕組み』ですか?」
「それがわかったら、自分が今、何をしているのかをしっかり理解できる」
「そうなんですね」
「君の場合、理容室を繁盛させることに取り組む前に、そういった経営やビジネスの概念を知ることのほうが先決や」
立三さんは、そう言って、話し始めた。
「米国にマイケル・ポーターという経営学者がいる。彼は2枚のシンプルなチャートを作った。やったのはそれだけなんやけれど、“経営戦略の父”と呼ばれている」
「2枚のチャートですか?」
「そうや。偉大なるアイデアはいつもシンプルなもんや。シンプルということは普遍的いうことやからな」
「はい」
「1枚目のチャートは、企業が競争する環境を分析する〈5つの力分析(ファイブ・フォース・アナリシス)〉。2枚目のチャートは、企業活動の内部を分析する〈付加価値連鎖分析(バリューチェーン・アナリシス)〉や」
「難しそうですね?」
「1つずつ考えたら、そうでもない。まず、〈5つの力分析〉から説明しようか?」
――いよいよ、オレが心待ちにしていた経営の話が始まったようだ!