〈5つの力分析〉を学ぶ
立三さんは、バッグからノートとペンを取り出し、図を描きながら説明し始めた。
「理容師には理容師法という法律があって、それを守る人たちが理容業界を作ってるわけやろ?そして、その『業界の中で競争(業界内競争)』をしている(1の力)。ところが、理容師の免許がない人は、競争に参加すらできない。つまり、そういう人たちには戦う前に法律や制度が勝負をつけてしまってる。業界はそうやって作られてるというのがポイントや」
「はい」
「で、理容室を経営するためにはハサミとかクシといった道具が必要なんやけど、なんといっても腕のいい理容師の確保が大切。だから、優秀な理容師は、理容室同士の取り合いになる。つまり『調達』の力(2の力)が働くやろ」
「なるほど」
「理容室を大きくするためには理容学校と関係を密にすることも大切やろし、大きなフランチャイズの理容室が専用の学校を作るかもしれない。でも、そもそも、お客さんがいないと商売は成り立たないから『販売』の力(3の力)が働く」
「はい」
「ところが最近は、美容室や10分1000円の理容室で髪を切る男性が多くなってきている。これが『代替』(4の力)。さらに、鉄道会社が駅の構内に自前で通勤客用の理容室を開いたら、『新規参入』(5の力)となる。でも、自分の業界だけを見るんやないんやで」
「どういうことですか?」
「例えば、お客さんは、マッサージ店に行く代わりにマッサージの充実した理容室に行く可能性もある。そうなると、マッサージ店は理容室の『代替』(4の力)とも言える。マッサージ店の『5つの力分析』を考えてみることも大切や」
「なるほど」
「理容師法があるから、マッサージ店は理容には攻めて来ないけれど、理容師法がマッサージを禁止にする可能性もあるわけやからな。これは、『業界内競争』(1の力)の『法律や制度』やな」
「あ、本当ですね」
【5つの力分析】
収益性に影響を与える要因を分析する手法の1つ。「業界内の競合」「買い手の交渉力」「売り手の交渉力」「代替品の脅威」「新規参入の脅威」の視点から、それぞれがどのように業界の競争に影響を与えているかを考察し、業界の競争状況を分析するためのチャートを用いる。