「解決できる部分」に集中する

 ダルマ(自分でコントロールできること)を考えると、ストレスやネガティブ感情が行動のアイデアに変わる。そのアイデアは心を占有し、ネガティブ感情を締め出すようになる。

 しかし、問題がカルマ(自分ではコントロールできないこと)の場合はどうすればいいだろう?カルマは人間のコントロールを超えたものであり、基本的には問題解決のためにとれる行動はない。だが、その代わりにできることもある。問題自体を変えることはできなくても、ネガティブ感情を克服するためにとれる行動はある

 たとえばカルマが過去の苦しみである場合、私たちはそのカルマから教訓を学ぶことができる。これはダルマの場合と同じく、具体的であればあるほどいい。

 あなたが会議で上司に罵倒されたことで思い悩んでいるとする。将来同じ問題が起こるのが不安なら、それを再発させないような対処策(ダルマ)を考えればいい。

 しかしそうではなく、あなたを苦しめているのが、屈辱を体験させられたということ自体であれば、それはすでに起こったことであり、それについてできることは何もない

 だが、この問題からどのような教訓を学べるかを考えることはできる。

 いくつもの答えが考えられる。たとえば、上司に罵倒された会議のことを冷静に振り返れば、「今後は同じことを繰り返すのはやめよう」と思えるような言動をしてしまっていたことに気づくかもしれない。

 ごく小さなことでもいい。あなたはパワーポイントを使ってプレゼンをしていたが、会議に同席した幹部はパワーポイントが嫌いだった。幹部の機嫌を損ねてしまった上司は、あなたを守るのではなく、罵倒した。そこから得られる教訓は、今後会議に出席するときは、上司を含めた参加者の特徴や好みを事前に調べておくということだ。

 そのように考えることで、あなたは問題を「過去の会議で起きた嫌な出来事」というカルマから「今後の会議で嫌な気持ちにならないための方法」というダルマに切り替えることができる。そうすれば、とるべき行動も明確になる。

 また、どれほど事前に準備しようとも、予期せぬ何かは必ず起こる。その場合、将来に向けた具体的な行動をとることではなく、考え方をシフトさせることが大切になる。ネガティブ感情を持たずに、カルマの状況を受け入れるのだ。

 もしあなたが問題とその対処法についてあらゆる角度から徹底的に考え抜いたと心から思うことができれば、ネガティブ感情は治まっていく。

 ネガティブ感情は主に、問題を解決したいという欲求を満たせないフラストレーションから生じている。実際には問題が変わらなくても、全力で解決に取り組めば、「自分にできることはもう何もない」と心の底から思えるようになる。そのとき脳は、穏やかな状態に戻るのである。

――連載第4回に続く
(本原稿はウィリアム・ダガン著『天才の閃きを科学的に起こす 超、思考法』から抜粋して掲載しています)