出張の際に、久しぶりに中野ブロードウェイに立ち寄った。何気なく2階をぶらついていると、白い壁にあの「pixiv」の文字が目に飛び込んで来た。
「pixiv」(ピクシブ)とは、イラストの投稿・閲覧が行なわれているSNSだ。私のような絵心のない人間にとっては、羨ましい限りのイラストが数多く紹介されており、ピクシブ株式会社が運営している。「pixiv」には、そのアカウント数だけでも、370万を越えているユーザーが登録しているというから凄い。
よくよく見ると、「pixiv Zingaro」と書かれていたため、「あのpixivとは関係ないのか?」と思って覗き見ると、そこからネットで見たことがある斬新で素晴らしいイラストの数々が、目に飛び込んで来た。
「pixiv Zingaro」は、今年7月にオープンしたギャラリー。ピクシブ株式会社と、現代アーティストの村上隆氏が代表を務める有限会社カイカイキキが、共同でプロデュースしている企画である。既成の枠に捉われない企画を展開している。
今後の予定として、12月15日~12月27日まで青山裕企写真展、来年1月6日~1月17日までは凱旋企画として「アサシンクリードアート展」が開催されるので、ぜひ足を運んでみて欲しい。
現代絵画と言えば、”シルクスクリーン”などと銘打って、駅前で強引に画廊に連れて行き、異常なほど高額な版画を詐欺まがいな手法で売りつけることばかり考えている業者や、いわゆる「大家」と呼ばれる画家が描いたのものばかり、というイメージが強く、庶民には縁遠いものだと思っていた。
しかし、そんな版画や大きな賞を受賞した大家の作品よりも、「pixiv Zingaro」に飾られた作品には、訪れた大勢の人々の目を惹きつけて離さないものがある。
大きな賞と言えば、主体展に17歳という最年少で入選を果たした、小嶋ケイスケ氏にもお話しを聞くことができた。小嶋ケイスケ氏は、現在アニメーターとして活躍しながら、「pixiv」に自由な作品を掲載しており、今回の企画にも知り合いを通じて参加しているとのことだった。
筆者と同郷ということもあるが、著名でありながらとても気さくな人だったので、図々しい質問を投げかけてみた。
「主体展で入選したほどなのに、大学で勉強を重ねて、本格的な油絵作品を描こうとは思わなかったのですか?」
それに対して、小嶋氏はこう答えた。
「アニメーターしか、視野に入れていなかった」
頭をハンマーで叩かれた思いがした。美術表現をすることは、金銭や名前を売ることと関係なく、アニメも日本が海外に誇れる素晴らしい現代芸術作品なのだと気づかされたからだ。
将来、小嶋ケイスケ氏を筆頭に「pixiv」に参加している人たちが素晴らしいアニメをつくってくれるのではないかと想像すると、ワクワクしてくる。そして、企業が「pixiv Zingaro」というギャラリーを通じて若手作家を応援し、チャンスの場を設けるという“将来の現代美術”への投資に大きな意義を感じた。
(木村明夫/5時から作家塾(R))