大震災、津波、福島原発事故が日本の観光事業に大きな打撃を与えた。訪日外国人旅行者数が大幅に落ち込み、日本観光のインバウンド事業を支える主力軍である中国人観光客が日本旅行を一斉に敬遠し、日本の観光地はどこも閑古鳥が鳴いている。

 福島、宮城など東北だけではなく、被災地の福島から1500キロも離れている九州の観光産業も福島第一原子力発電所の事故の影響に泣いた。「長崎県のハウステンボス、宮崎県のシーガイア、大分県湯布院町など、九州の観光スポットから外国人観光客の姿が消えている」とメディアが報じている。1か月前に私が訪問した島原や雲仙でも外国人観光客の姿を見つけることはできなかった。ハウステンボスの沢田秀雄社長は決算発表の席で、「地震以降、外国人観光客はほぼゼロに近い」と述べたそうだ。日本の観光業者は絶望のどん底に落とされた思いに駆られていた。

 そこへ転機が意外と早く訪れた。先週、日中韓首脳会談に参加するため日本を訪れた中国の温家宝首相が、中国からの訪日観光客の回復に向けて、中国国家観光局長を団長とする100人規模の視察団を5月末までに日本に派遣し、さらにこれまでの規制を緩和して、中国人向け海外旅行業務のライセンスを日本の大手旅行会社1社に付与することに踏み切った。このまま行けばひょっとしたら中国人観光客はまた大挙して日本にやってくるのではないか、と期待を膨らませた地方自治体や観光業者が多いようだ。

 日本の各地方自治体も我先にと中国人観光客誘致のためのPR宣伝に力を入れている。北海道は現代中国の男女の愛を描いたラブコメディ映画「非誠勿擾」(狙った恋の落とし方)の影響で、中国ではたいへんな人気を得た。それを見た各地方自治体はその成功例に習って、中国や韓国の映画やテレビドラマのロケを必死に誘致しようとしている。二匹目のドジョウ、三匹目のドジョウを狙おうという意気込みはわかる。しかし、映画という狭い選択肢に賭けることに対しては疑問を覚えている。

 確かに観光に対しては、映画やテレビドラマがもつ映像を通してのアピール力は過小評価してはならない。しかし過大評価もしてはならない。事実、「非誠勿擾」の後、中国や韓国の映画またはテレビドラマのロケ誘致に成功した地方自治体は何カ所かあったが、「非誠勿擾」ほどの集客効果は出ていない。分かりやすく言えば、映画もテレビドラマがヒットしないことには、ロケ地に選ばれた観光地も話題になることはないのだ。もちろん、その延長線上にある集客効果も期待できなくなる。

 実は、観光地の宣伝PRには、映画以外にも有効な方法がいろいろとある。漫画家水木しげる氏の代表作である妖怪を活用して、町おこしに成功した鳥取県境港はその一例だ。境港の成功を大きく拡大したような町が中国にもある。油絵の力を借りてごく普通の村を世界的に知られる観光地に変身させたのだ。上海と蘇州の間にある周荘である。