オブジェクティブズ(目標)の役割

 では、普通の人が困難な課題に取り組むために、それも意欲的、かつ責任感を持って取り組むために、経営者や職場のリーダーはどんな工夫や努力をしたらよいのでしょうか。

 大きく分けて、以下の2つの打ち手が必要です。

 1.チャレンジ目標の設定

 2.動機づけ

 普通の人は、ただ漫然と業務をこなすだけでは、自らの持てる力を存分に発揮することはできません。

 そこで、「オブジェクティブズ(目標)」の登場です。

 MBO-Sではこの目標をチャレンジ目標と呼びます。
チャレンジ目標の特徴は、「ギリギリ背伸びした目標」であるという点です。

 このさじ加減を間違えると、チャレンジ目標は天から降ってきたノルマになってしまいます。

 簡単すぎてもダメ、難しすぎてもダメ。

 達成できそうだという予感を伴った目標を創り出すのがコツであり、そのためには達成手段の検討が必須です。

 また、「自分で決めた」という納得感も必要です。

 他人が決めた目標では、やらされ感がいっぱいで、とても意欲的な取り組みや粘り強い目標達成活動などは期待できないからです。

 ドラッカーの理論をわかりやすく紹介したベストセラー小説『もしドラ』を例にとりましょう。

 『もしドラ』の主人公である女子マネージャーのみなみちゃんは、「野球部を甲子園に連れていく」という目標を立てました。これが野球部にとっても、部員にとっても、そして自分自身にとっても「大事なことだ」と考えたからです。

 それは「連れていきたい」という願望ではなく、連れて「いく」という強い決意の伴った目標でした。だから、何としてでも達成したい、と本気で考えていました。

 これはビジネスの世界では、「職場目標」に該当します。

 しかし、ほかの野球部員にはそんな思いは露のかけらもなく、「それは正直厳しいよ。うちの部員たちは、甲子園に出るために野球をやっているわけじゃないからね。体を鍛えたり、仲間を作ったり……」とシラけていました。

 つまり、職場目標をメンバーが「自分の目標」として受け入れていない状態だったのです。