ダイヤモンド社刊 【絶版】

「事業上の意味のない企業買収は、マネーゲームとしてさえうまくいかない。事業上も金銭上も失敗に終わる。企業買収に成功するには5つの簡単な原則がある」(『マネジメント・フロンティア』)

 ドラッカーは、40年にわたる企業観察の結果、すでに1980年代の初めに、企業買収に成功するための5つの原則を「ウォールストリート・ジャーナル」に発表している。

 しかし、当時はよいことを聞いたと喜んでいた米国の企業家たちが、いざとなると、それら5つの原則を守れずに失敗していった。そして、今日も、相変わらず失敗し続けている。

 ドラッカーのいう、事業上の目的による企業買収に成功するための5つの原則とは何か。

 第1に、企業買収は、買収される側に大きく貢献できる場合にのみ成功する。問題は、買収される側が買収する側に何を貢献できるかではない。買収する側が貢献できるものは、経営能力、技術力、販売力など、さまざまである。

 第2に、企業買収は、買収される側と共通の核がある場合にのみ成功する。共通の核となりうるものは、市場であり、技術である。あるいは、共通の文化である。

 第3に、企業買収は、買収する側が買収される側の製品、市場、顧客に敬意を払っている場合にのみ成功する。やがて、事業上の意思決定が必要になる。そのとき、製品、市場、顧客への敬意がなければ、決定は間違ったものとなる。

 第4に、企業買収は、買収される側に、1年以内にトップマネジメントを送り込める場合にのみ成功する。マネジメントを買えると思うことは間違いである。社長だった者が、事業部長になって満足し切れるわけがない。

 第5に、企業買収は、最初の1年間に、買収される側の者と買収する側の者を、多数、境界を越えて昇進させる場合にのみ成功する。買収を、歓迎されるものに仕立て上げなければならない。

「少なくともニューヨーク株式市場は、60年代のコングロマリット熱から目を覚まして以来、企業買収に関する5つの原則の重要性に気づいている。買収のニュースによって、買収する側の株価が大幅に下落することが、あのように多いのはそのためである」(『マネジメント・フロンティア』)