北朝鮮では金正日(キム・ジョンイル)総書記の死去後、三男正恩(ジョンウン)氏をトップに据えた後継体制づくりが進められている。後継者教育も政治的な経験も不十分な正恩氏に、はたして安定した統治ができるのか。学者として北朝鮮を50回以上訪問し、この国の政治システムを知りぬいたパク博士に、北朝鮮内部でいま何が起きているのか、金正恩新体制でどう変わるのか、日本はどう対応すべきかなどを聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 矢部 武)

Han S.Park/ジョージア大学国際関係学教授、同大学国際問題研究所ディレクターを兼務。朝鮮系移民の子として満州で生まれる。ソウル大学で政治学学士号、アメリカン大学で修士号、ミネソタ大学で博士号を取得。1970年からジョージア大学で教える。90年代初めに北朝鮮の核問題が起きて以来、毎年北朝鮮に視察団を送り、米朝の調停役を務める。94年のカーター元大統領と金総書記の会談を舞台裏で準備し、2000年のオルブライト元国務長官の訪朝実現にも尽力した。ドナルド・グレッグ元駐韓米国大使はパク博士を「米朝関係のアーキテクト(構築者)」と呼ぶ。

北朝鮮は安定した
体制を維持していく

――金総書記の死去で、北朝鮮にどのような変化が起こるのでしょうか。

 多くの人は北朝鮮の政治体制が不安定化するのではないかと懸念している。しかし、外部からの軍事的挑発や敵対行為を受けないかぎり、北朝鮮は安定した体制を維持していくと私は思う。

 実は、政治の不安定さということで言えば、1994年に金日成(キム・イルソン)主席が亡くなった時の方が不安は大きかった。

 金日成主席と金正日総書記の政治手法には大きな違いがある。金主席は直接的で、政策もほとんど一人で決めていた。非常に知的でカリスマ性があり、国をどう導くかという方向性をはっきり示し、自助・共助の考え方も推進した。その偉大な指導者を失ったことで国全体に不安が広まり、政治的にも不安定化したのである。