「権力」ではなく「実力」でリーダーシップを示す
ただし、「権力」をできるだけ使わずに、「リーダーは自分である」ということを明確に示す必要があります。そのためには、どうすればいいのか?
シンプルですが、「実力」を見せるということ以外にないと、私は思います。がむしゃらに「権力」を使ってリーダーであることを認めさせたとしても、メンバーは内心では反発を覚えていますから、それで生まれる秩序は、いわば“見せかけの秩序”でしかありません。「実力」を見せることで、メンバーが心から「このリーダーについていこう」と思ったときにはじめて、真の意味での秩序が生まれるのです。
これこそ「王道」。
そして、優れたリーダーは「王道」を行くべきなのです。
これを痛感したのは、ファイアストンを買収してから二十数年にわたる統合プロセスにおいてです。
1988年に買収した当初、ファイアストンとの統合は苦難を極めました。当時、私は社長直下の秘書でしたから、社長である家入昭さんが苦慮する姿を目の当たりにしていました。自身が率いるブリヂストンがリーダーであることを、ファイアストンの経営陣・社員に明確に示さなければならないのですが、権力的な強いアプローチを取るのはあまりにリスクが高かったからです。
まず第一に、当時、ファイアストンは最悪の経営状況に陥っていましたが、アメリカの超名門企業でしたからプライドは異様なまでに高かったからです。そのプライドをあからさまに傷つけるようなことをしても、両者の関係をこじらせることにしかならないのは明らかでした。しかも、ファイアストンは「アメリカの誇り」でもありましたから、ヘタをするとアメリカ世論を敵に回す恐れすらあった。
また、当時の日本企業がそうであったように、ブリヂストンもM&Aの経験が乏しかった。しかも、ファイアストンは、ブリヂストンよりはるかに歴史が古く、世界における存在感も圧倒的に大きいグローバル・ジャイアントでしたから、まともにぶつかり合うには相手が悪すぎる。買収直後から強い対応ができないことは明白だったのです。