「優れたリーダーはみな小心者である」。この言葉を目にして、「そんなわけがないだろう」と思う人も多いだろう。しかし、この言葉を、世界No.1シェアを誇る、日本を代表するグローバル企業である(株)ブリヂストンのCEOとして、14万人を率いた人物が口にしたとすればどうだろう?ブリヂストン元CEOとして大きな実績を残した荒川詔四氏が執筆した『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)が好評だ。本連載では、本書から抜粋しながら、世界を舞台に活躍した荒川氏の超実践的「リーダー論」を紹介する。
組織のメカニズムには、「負の作用」が伴う
リーダーは必然的に「裸の王様」になる──。
私は、そう考えています(詳しくは連載第18回参照)。なぜなら、組織には、リーダーをそうなるように仕向けるメカニズムが埋め込まれているからです。つまり、組織はよくも悪くも「権力」がなければうまく機能しませんが、「権力」があるからこそ部下は上司に”忖度”してしまう。このメカニズムに無自覚なリーダーは、いとも簡単に「裸の王様」になってしまうわけです。
そして、当然のことですが、組織が内包しているメカニズムはこれだけではありません。実にさまざまなメカニズムが働いているからこそ、組織は機能しているわけです。ただし、あらゆるメカニズムには「負の作用」が伴います。そのことに鈍感な人物は、組織という“神輿”に乗せられることはあったとしても、真の意味でリーダーシップを発揮することはできないのです。
私が、組織のメカニズムに敏感になったのは、秘書課長時代のことです。
当時、私は、社長である家入昭さんのサポートをするために、社内のすべての部署と密接なコミュニケーションをとる必要がありました。
そのときに、細心の注意を払っていたのは、“社長の威を借るキツネ”にならないことです。私のバックには社長という権力者がいるわけですから、誰もが私に丁寧に対応してくれます。これが危ない。職位的には課長だった私が、あたかも自分が偉くなったような錯覚をしたらおしまい。総スカンを食らうと思ったからです。
しかも、私の背後に社長の存在を見る人々は、私を警戒します。
その結果、私に本当のことを教えてくれなくなるかもしれない。それでは、社長をサポートすることはできない。そう考えた私は、ひたすら目立たないように努めました。あくまで主役は社長であって、私は裏方。頭巾をかぶって裏方を務める黒子のようなもの。それを徹底したのです。
そんな役回りを完璧に務められたとは到底思えませんが、それでも、多くの部署の人々と垣根なく率直なコミュニケーションができたように思います。そして、このときに組織のメカニズムについて多くの学びを得ることができました。社内のさまざまな部署から上がってくる案件が、どのようなメカニズムで社長のもとに届くのかを間近に観察することができたからです。