10年ぶりのユーロ100円割れ<br />輸出企業の実需売りが下落圧力財政危機回避へ向け、有効な対策を打ち出せない欧州当局に対する市場の疑念は消えない
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 2012年も欧州財政危機の行方に振り回される1年となりそうだ。年末最後の取引日である11年12月30日、ユーロが対円で100円の大台を割った。これは01年6月以来、10年7ヵ月ぶりのことである。年明けの4日の終値も99円21銭と100円を下回った。

 ユーロは11年12月初旬の104円台からずるずると下値を切り下げていた。

 欧州財政危機がその背景にあるのは言うまでもない。危機回避に向け、ユーロ圏諸国が揃って緊縮財政に舵を切るなか、12年のユーロ圏の経済成長率がマイナスとなるのは確実。12年前半にもECB(欧州中央銀行)は11年11月に続く利下げに踏み切ると見られる。

 利下げ観測に乗じるかたちで、投機筋もユーロを売り込んでいった。投機筋の動向を示すシカゴIMM非商業部門のユーロ先物の売り越し幅は12月27日時点で、前週比1万4182枚増の12万7879枚となった。

 今後もユーロは下値を切り下げていく公算が大きい。

 EFSF(欧州金融安定基金)とESM(欧州安定メカニズム)の規模拡大(現在の上限は合計で5000億ユーロ)、第2次支援に伴うギリシャ国債の債務減免幅拡大への民間投資家の合意取り付けについてはいまだ、メドは立っていない。

 財政危機に陥った国への支援のための、EU(欧州連合)加盟国によるIMF(国際通貨基金)への拠出は1500億ユーロと、目標の2000億ユーロに届かなかった。

 もし、イタリアが財政危機に陥った場合には、支援に1兆ユーロを超える資金が必要と目される。イタリア、スペインなど債務負担の大きい国の国債大量償還が年明け以降も控える。当面の危機回避に向けた体制は十分とは言いがたい。

 S&P、ムーディーズなど格付け会社がユーロ圏諸国の格下げの可能性を示唆していることもマイナス材料だ。

 実需面でもユーロには下落圧力がかかっている。「100円割れへと下落していく過程で日本の輸出企業の多くは、リスクヘッジのためのユーロ売り予約を入れていない。100円割れとなってようやく動き始めた」(高島修・シティバンク銀行チーフFXストラテジスト)からだ。こうした実需の売りがユーロ相場を押し下げていくと見られ、1ユーロ=95円前後まで下落する可能性は十分にある。

 11年12月以降105円と見ているトヨタ自動車をはじめとして、日本の輸出企業の多くは100円台をユーロ想定レートとしている。キヤノンが年間で1円の対ユーロ円高で50億円強営業利益が減少するなどドルほどではないにせよ、ユーロ安は輸出企業の業績の足を引っ張る。欧州の景気減速と合わせ、二重の打撃となる。

 第2のリーマンショックに至らなくても、欧州財政危機は日本経済の足元を蝕みつつある。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田孝洋)

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