だが、馬場の心は折れなかった。

 日立幹部は、「失敗すると開発チームの士気は下がる。馬場にはメンバーをもり立てて改善策を練り上げるタフさがある」と語る。

 改良すべき点は音声認識の他、ロボットの移動や転倒後に起き上がる動作など数多くあった。馬場は「大変だったのは膨大な数の試作品づくりだ。乗り切れたのは多少苦しくても前向きに難題に取り組むメンバーのおかげ。3Dプリンターを夜通し動かして試作品を作ってくれた人もいた」と話す。

 改善を重ねていく中で、ようやくロボット開発に光明を見いだせた忘れられない場面がある。実証試験中、パーテーションの裏でEMIEW3を見ていたときだ。ふらりと近づいてきた男性に喫煙所の場所を聞かれたEMIEW3が、自然に道案内をやってのけた。

 馬場は隣にいた若手の技術者に視線を送り、喜びを分かち合った。

商品価値を決めるのは頭脳
「リモートブレイン」に期待

 試行錯誤を経て、EMIEW3の対話能力は「顧客のフィールドで使えるレベルに近づいた」(馬場)。だが、それだけではにわかに普及しているAIスピーカーとの差別化はできない。

 EMIEW3の商品価値を決めるのは「リモートブレイン」と呼ばれる頭脳だ。

 実はEMIEW3が話す内容は、ロボット内部ではなく、クラウド上にある頭脳が考える。このマザーブレインに知能処理を任せたことで重たいコンピューターを体内に持つ必要がなくなり、機動的な軽い体が実現した。

 メリットはそれだけではない。マザーブレインのおかげでEMIEW3は個々のロボットを超えた能力を手にした。鍵は外部データとの接続性にある。例えば、監視カメラの映像を共有し、道に迷っている人や落とし物を検知できる。

 しかもマザーブレインが複数のEMIEW3を制御するため、人をエスコートする途中で別のEMIEW3に引き継いだり、ビルの警備を手分けして行ったりできる。

 新たな言語、家電製品などの商品情報や在庫データを更新すれば、複数のEMIEW3に瞬時に共有させられるのも強みだ。

 将来的には顧客の業務システムに接続し、案内にとどまらぬ高度なサービスの提供も視野に入れる。

「業務用ロボットに求められる性能では絶対に負けない」。その決意が馬場たち開発者を突き動かす。(敬称略)

(「週刊ダイヤモンド」編集部 千本木啓文)

Photo:HITACH

【開発メモ】人型ロボット「EMIEW3」

 日立製作所が開発する人型ロボットの3代目で、2018年に事業として実用化を目指す。身長90cm、体重15kgで人に圧迫感を与えることなくサービスできる。最高速度は時速6km。知能処理をロボット本体ではなく、クラウド上のマザーブレインが行う。マザーブレインを更新すれば、新たな言語やマニュアルを覚えさせることができる。