春節の風習めぐって起きた
日中の心暖まる交流

 しかし、ピースボートの企画は異彩を放っていた。極端に言えば、3ヵ月以上にも及ぶこのクルーズ旅行期間中は、まるで「洋上大学」にでも入学したようなもので、さまざまな講座やセミナー、講演会に勉強会、太極拳やヨーガなど趣味のサークル活動まであった。

 最初に乗船した日本人乗客はすぐに溶け込み、いろいろなイベントに参加したりして目が回りそうな忙しい毎日を送っていた。このように、クルーズ旅行のイメージとはかけ離れた光景を目の当たりにした中国系乗客は、最初こそ驚愕した表情で見ていたものの、私や中国語を話せるスタッフから背中を押され、次第にこうした活動に参加していくようになった。

 そして、私が下船した頃は、大半の中国系乗客が日本人乗客に溶け込み、いろいろな交流を始めていた。まさに"草の根交流"だなと感心しながら、シンガポールで後ろ髪を引かれるような思いで下船した。

 しかし、クルーズという、ある意味拘束された空間の中で、3ヵ月以上という長い時間を過ごすことは、日中両国の乗客たちにとって、濃密な交流の貴重な舞台となるだろうと思っていた。

 後に関係者からの話を聞くと、案の定、いろいろな心温まる交流のエピソードがあったようだ。

 世界一周の旅を続けるさなかに、春節(旧正月)が訪れた。クルーズの乗組員は、北京から来た中国人乗客のY夫婦から相談を持ち掛けられた。

「中国の春節には、年上、特に最高齢の方と、年下、特に最年少の方を敬う風習がある。そこで、個人的に乗船者のそれぞれの方に、私たちから新年のご挨拶と『お年玉』を渡したいので、どうにか会わせてもらうようにしてもらえないだろうか」