ダイヤモンド社刊
【絶版】

「立派な企業が長期低迷に入る。いずれの場合も主たる原因は、事業上の5つの大罪の少なくとも1つを犯したことによる。だが、それらは、犯さずにすませる罪である」(『未来への決断』)

 原油価格の高騰を受けて、国際競争は一段と激化する。ここでドラッカーのいう「5つの大罪」が、再び大きな意味を持ってくる。これもまた、「ウォールストリート・ジャーナル」に発表されたドラッカーの有名な洞察である。

 第1の大罪は、利益幅信奉である。コピー機ほど急速に大きな成功を収めた製品はない。しかし先行者は、機能を追加して利益幅を拡大した。消費者の多くは単純な機能で十分だった。そこで彼らは、単純な製品が現れれば、買う気になっていた。そこへ、競争相手が現れて市場を奪っていった。

 第2の大罪は、高価格品信奉である。これもまた、競争相手を招き入れるだけの結果になる。ファックスを発明した米国企業は、限度いっぱいの最高価格を設定した。その結果、世界のファックス機市場は外国企業の手に渡った。

 これに対して、ナイロンを開発したデュポンは、下着メーカーに支払わせられる価格よりも4割安い価格を付けた。同社はずっと一流繊維メーカーの地位を保った。

 第3の大罪は、コスト中心主義である。ほとんどの欧米企業が、コストを積み上げ、それに利益幅を上乗せすることによって価格を設定し、その挙句に市場を失った。

 価格設定の唯一の健全な方法は、市場が快く支払ってくれる価格からスタートすることである。そのうえで製品を設計する。米国の家電メーカーが壊滅した原因は、価格設定の方法の誤りにあった。

 第4の大罪は、昨日崇拝である。昨日を重視し、明日を軽んじる。IBMは、かつてパンチカード事業を重視してコンピュータ事業を軽視し、その後、メインフレームを重視してパソコンを軽視した。

 第5の大罪は、問題至上主義である。機会を放って問題にかかりきりになる。GEは世界で1位か2位になる気のないものから手を引いたとき、成長路線に乗った。

「事業上の5つの大罪は、その害が十二分に明らかにされているものである。5つの大罪については、言い訳は許されない。絶対に負けてはならない誘惑である」(『未来への決断』)

週刊ダイヤモンド