日本と台湾の友好関係が加速している。
「日本で故宮展を開催したい」
2011年9月、日本でひっそりと施行された「海外美術品等公開促進法」。じつはこれ、台湾の「故宮博物院」所蔵の美術品を、日本で展示するために制定したと言っても過言ではない法律だ。
というのも、これら美術品を台湾国外に出品するとなれば、「中国が展示品の所有権を主張、差し押さえる可能性があった」(日本政府関係者)。かつて中華民国政府が台湾へ撤退する際、北京の故宮博物院の美術品のなかから選び抜いて運び出したコレクションが展示されているのが、台湾の故宮博物院だからだ。まさに「2つの中国」ならぬ「2つの故宮」という、中国と台湾の微妙な関係を象徴している。
ただ、このところ中国と台湾の関係は非常に良好。そこで日本も、「今なら中国側も問題視しないだろう」(同)と見込み、台湾側の強い要望もあって、美術品が差し押さえ対象とならないような国内法の制定に踏み切ったというわけだ。
このように日本と台湾が親交を深めつつある背景には、中国と台湾が次第に歩み寄りを見せていることがある。12年1月14日の台湾総統選で見事再選を果たした、馬英九総統(国民党)の対中融和政策の効果である。
周知の通り選挙の結果は、現職の馬総統が、台湾独立志向の強い野党・民進党の蔡英文主席を抑えて勝利した。台湾の有権者の多くが馬氏による中国との良好な関係構築、とりわけ経済連携を強化した“実績”を評価した格好だ。
欧州経済が減速するなか、輸出依存度が対GDP比6割強にも上る台湾経済にとって、いまや輸出の4割を占める中国との関係は最重要マター。そこで10年6月にはECFA(両岸経済協力枠組み協議)と呼ばれる事実上の中台FTA(自由貿易協定)を導入、関税引き下げによる台湾側輸出業者の減税効果は、11年1―9月にはすでに約9200万ドル(70億円)に達している。
両国経済関係の改善によって、これまでは中国サイドに遠慮がちだった日本も、ここにきて台湾との関係を前進させている。故宮展開催のメドがついただけでなく、10年10月には台北・松山空港―東京・羽田間直行便が就航したほか、11年10月には初の投資協定も締結しているのだ。
もっとも台湾と競合する工作機械などの日本企業に限ってみれば、日本は中国とのFTA・EPA締結には至っていないため、「中国市場において台湾勢が脅威となり得る」(伊藤信悟・みずほ総研アジア調査部中国室長)。とはいうものの、中国進出を図る日本企業のなかには、台湾との合弁会社設立によって「中国市場に挑戦しやすい環境が構築されている」(日本企業)と評価する企業も少なくない。
それだけに馬氏の再選は、第4位の貿易相手国である台湾との友好加速が今後も見込まれるとあって、日本にとっても好材料となることは間違いない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)