日本の株式市場を見限り、アジア市場での上場を目指す国内企業が相次いでいる。

 12月7日。あずさ監査法人が東京・丸の内で開催した「台湾IPOセミナー」には、定員100社の枠に申し込みが殺到した。受付と同時に定員に達する盛況ぶりで、関係者は「異例の人気ぶり」と驚きを隠さない。

 そればかりではない。ついには台湾で上場する企業も出始めた。シリコンウエハ製造を手がけるケイ・エス・ティ・ワールド(福井県)は11月、台湾の株式市場に上場を申請。12月半ばの店頭登録を予定しており、実現すれば国内企業初の台湾上場となる。

 昨年1年間、日本市場でIPO(新規株式公開)をした企業はわずか19社。2006年のピーク時(188社)に比べて約1割という低迷ぶりで、今年に入ってからも12社にとどまっている。

 資金調達も同様で、06年の平均調達額から半減して30億円程度にまで落ち込むなど、日本市場はなんともお寒い現状だ。

 それに対し、台湾、韓国、シンガポールといった市場は至って元気。IPOも回復を見せており、上場すれば、「株価が高く評価され、同じ株式発行数であってもより多くの資金調達額が見込める」(国内新興企業)と、企業が判断しているのもうなずける。

 しかも、これまでは日本市場の上場基準の厳しさから逃れるため、アジア市場を目指す企業が多かった。しかし韓国で、「上場審査をクリアできなかった国内企業が2社」(同)出るなど実際はそう甘くはないのだが、今では日本でも十分上場可能といわれるような優良企業までもがアジア市場での上場を望んでいるというのだ。

 たとえば売上高80億円、利益でいえば2億円を誇る都内の製造企業は、大手証券が軒並み馳せ参じて国内での上場を懇願したにもかかわらず、シンガポール上場へ向けて着々と準備を進めている。

「審査のスピードが決め手。1年でなんとか上場したいのに、国内は最低でも2年はかかる。これでは当社の成長プランにブレーキがかかってしまう」と、同社の社長はその理由を明かす。

 もっとも、やや過熱気味であることも否めない。本来であれば、「現地における事業拡大を第一の目的とすべき」(角道裕司・藍澤證券常務執行役員)。だが、現地で事業展開する気がさらさらない場合でも、「単にカネ目当てで上場を目指す」(別の証券関係者)という、本来の目的がすっぽり抜け落ちた企業も出始めている。

 とはいえ、日本市場は依然として「リスクマネーの出し手がいない」(東京証券取引所関係者)状況が続いている。国内IPOは今年も「最終的に20~30社程度にとどまる」(証券関係者)と見られており、しばらくアジア上場を目指す熱は冷めそうにない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)

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