取り込み詐欺にやられた
優秀な営業マンの失敗

「仕事ができる人」ほど致命傷を負う自信過剰のワナ著者・中尾政之氏の新刊が発売中

 都内の某事務機器販売会社のケースだが、30代のとても優秀な営業マンがいた。目から鼻へ抜けるとは彼のためにあるような言葉で、頭の回転の速さとシャープさでいつも業績トップを誇っていた。

 とくに彼が得意にしていたのは、新規顧客の開発である。新聞や雑誌を事細かくチェックして、自社商品の売り込みに活用する。広い人脈を活かして、次から次へと新しい得意先を紹介してもらう。まさに頭と足の両方をフルに使った営業だ。これだけ会社に貢献していると、ある程度の裁量は任せてもらえるようになる。たとえば、大型コピー機やFAXの値引きなどだ。

 しかし、好事魔多し。知人から新規のお客を紹介されたのだが、そのうちの1社で取り込み詐欺に引っかかってしまったのである。

 取り込み詐欺とは、相手を信用させて、まとまった商品を納入させ、代金を支払わずその商品をもって逃げてしまうもので、詐欺の中では代表的な手口とされる。

 詐欺師は、実際どうするかというと、最初は少しだけ取引をするわけだ。もちろん、支払いは現金払いである。日を置かずに次の注文を入れる。今度は少しまとまった金額だから、支払いは1週間後にすると約束する。これもきちんと履行する。

 そして、それから数日後―。

「まとまった注文をしたいけど、今、手持ちの現金がこれしかないんです。なんとかなりませんか? 一生の頼みです」

「わかりました。しかし、今回だけですよ」

「いやぁ、助かります。もちろん今回だけにしますよ。では、1ヵ月後の手形払いでよろしいですね?」

「結構です」

 もちろん、1ヵ月後の手形(実際には小切手の回収)など落ちるわけがない。慌ててオフィスを訪れても、すでにもぬけの殻というわけだ。悔しがっても、後の祭りである。失敗とは、いつも「後の祭り」なのだ。

 この営業マンもあまたの先輩の失敗と同じような手口に引っかかった。このミスは典型的な自爆だけれども、ヒューマンエラーで片づけてはいけない。彼が失敗した理由は、ひとえに「ルールに則っていなかった」からである。

 失敗原因は、取り込み詐欺というよりも、ルール違反にあるのだ。