いちいち上司の指示を仰ぐ
必要はないという過信

 この会社のルールでは、

「取引の浅い会社からのまとまった発注には、社長決裁が必要」

 とされていた。にもかかわらず、彼はこのルールを完全に無視した。自分勝手に即断せず、せめて直属上司に相談してもよかったのではなかろうか。あるいは、先方に、

「少々、お時間をいただけますか? 持ち帰って責任者と相談したいと思います」

 と、なぜいえなかったのだろうか。そうすれば、

「まだ取引数ヵ月では信用できない」

 と上司が却下したかもしれないし、

「納入前に半額分だけ払ってもらいなさい」

 とアドバイスしたかもしれない。

 しかし、彼はそうしなかった。なぜか? そこには、

「いちいち人に相談する必要などない。儲かる話なのに指示を仰ぐ必要はない。そもそも、この商談は自分がまとめたのだ。会社は自分の働きがあって成立している」

 という過信があったのだと思う。

 そもそも失敗の大元は、彼の輝かしい営業成績、成功の歴史にある。成功は失敗の元である。勝って兜の緒を締めよ、である。

 このような失敗は、幸か不幸か、仕事に慎重な人は永遠に遭遇しない。逆に機を逸して大成功を逃してしまうかもしれない。しかし、古今東西の歴史をたどれば、たとえば長篠の戦いのように、大損害は撤退時に生じる。どの軍隊も撤退の演習をしていないからである。しかし、ビジネスには「ルール」というブレーキがある。

 仕事に慎重な人は、自分に絶対の自信などがないから、なんでも周囲にアドバイスを求める。だから、大きな失敗はしない。

 一方、仕事ができる人は自分の力に自信をもっている。結果として、独断専行してしまうのである。ルールをきちんと守ることさえ配慮していれば、トップ営業マンがこんな失敗でミソをつけることもなかったはずだ。

 百日の説法屁ひとつ。百日の厳粛な説法も説教者の最後の屁ひとつで台無しになる。