ある日の夕方、Tさんは「仮にいま大地震が起こって、社内にいる社員たちが帰宅できなくなったら、現在の備蓄で足りるだろうか?」との疑問を抱きました。給湯室へ行ってカップラーメンの入った段ボール箱を覗いてみると、なんとそこには1箱は使い切り、残りの1箱にはカップラーメンが数個残っているだけだったのです。

「ありえない…ダメだこりゃ!」。Tさんは落胆しました。

帰宅困難者を栄養失調に
させないために 

 ここはひとつ、きちんとルールを整備して、帰宅困難者がいつでも安心して非常時備蓄の提供を受けられる仕組みを作っておかないといかんなあ。Tさんはこのように決意し、PDCA(P[Plan;計画]→D[Do;実行]→C[Check;評価]→A[Act;改善])で解決することにしたのです(ここでは食料と水を中心に考え、毛布や簡易トイレ等については言及しないものとします)。

 Tさんはまず、プランの作成に先立って、各部署に備蓄品の現状に関するアンケートをとりました。「カップラーメンだけではカロリー不足。帰宅困難者が栄養失調で帰宅できなくなったらどうする?」「管理の仕方がお粗末」「平時には給湯室で湯が沸かせるが災害が起これば使えない」など、様々な意見が出ました。そしてこれら現状の問題点を踏まえ、次のようにプランを作成しました。

【目標】「備蓄品目と数量の適正化及び保管方法の標準化」です。シンプルな目標ではありますが、ここにはいくつかの下位の目標が織り込まれています。これらについては、次の「解決策」で具体的に実現することになります。

【目標を達成するための対策】PDCAの「Do」と「Check」で実行・評価・検証する内容です。次の3点を考慮して行うことにしました。
・品目と数量の見直し(現行のままでは非常時に不足する可能性が高い)
・更新管理方法の確立(備蓄品の補充・入れ替え時期、ムダにしない処分方法)
・保管場所(安全かつ取り出しやすい場所)の選定と備蓄品管理担当の決定

 これらはいずれも短期間に完了できるものですが、単に3つの作業項目を終えたというだけでは「Check」で評価・検証することはできません。本当の「Check」は、備蓄品が適正に管理されているかどうかを1年かけて追跡し、その結果を標準的な手順として採用できるかどうかにかかっているからです。

最初の1年目が
「Do」の正念場

 このケースでは、「Do」を2つのステップに分けています。一つは備蓄品管理の前提となる「品目と数量」の見直し、「更新管理方法」と「保管場所と管理担当」を決めること。もう一つは、これらの決定事項が順守されるように1年かけてモニタリングすることです。一つ目については「Plan」のステップに含めることもできますが、ここでは「Do」の一環と見なしています。