ビジネスに限らず様々な問題を解決する手法として、ファシリテーションが注目されている。ファシリテーションの普及に長年努め、最新刊『ストーリーでわかるファシリテーター入門』(小社刊)を上梓した森時彦氏に、ファシリテーションとはどのようなスキルで、どんな力を秘めているのかを語っていただいた。
ファシリテーターと司会者は
どこが違うのか?
──ファシリテーションは日本でも広く認知されるようになりましたが、本来の意味を誤解されている方も多いように思います。なぜ誤解されているのか、本当はどんなスキルなのかを改めてお話しいただけますか?
私が2004年に『ザ・ファシリテーター』(小社刊)という本を執筆した頃は、ファシリテーションとかファシリテーターという言葉をタイトルに使っても読者にわからないのではないかと言われました。それくらいファシリテーションの認知度が低かったのですね。
ところが、当時私が勤めていたアメリカの会社ではごく普通に使われていましたし、うまく使えば強力な武器になることを体感していたので、日本でもっと普及させなければという思いで同書を書き上げ、約13年が経ちました。
その間、多くの方々がファシリテーションの普及に努めてこられ、言葉は広く浸透したと思います。ただし、よい事例が言葉ほどは広がっていないため、その効果を体感しないまま言葉だけを理解された方は「ファシリテーター=司会者」といった意味で捉えておられるように感じます。
もちろんファシリテーターは司会もしますが、もっと応用範囲の広い概念です。私自身はファシリテーターを「促す人」という意味で捉えています。発想を促す、コミュニケーションを促す、行動を促す。そうした様々な「促す技術」を活用して、参加者の知恵とやる気、チームワークを引き出す役割です。
実際にファシリテーターが関わることにより、様々な分野で高い成果が上がっています。例えば働き方改革で言われているような仕事の効率化、生産性の向上、それにチームづくり、現場の活性化、戦略策定、組織変革、あるいは学校教育や生涯教育、地方自治や政治、国際的な紛争解決に至るまで、生産性の高い議論の多くに、実はファシリテーションが活用されているのです。
わずか10分で議論の行方を変えた
ファシリテーションの凄い力
──ファシリテーターが議論に関わることによって、その成果が大きく左右された事例をご教示いただけますか?
例えば、ある病院で私がファシリテーションの講義をしたあとに、外科医の先生方が集まって業務改善の議論をしたことがあります。どうすれば手術の件数を増やせるかというテーマでしたが、「これ以上は働けません」「これ以上無理すると医療過誤が起こります」というように、ご多分に漏れず、なぜできないかという議論に陥ってしまいました。