そこで私が介入して、プロセスマッピングをしてはどうかと提案しました。これはメーカーでよく使われる方法ですが、全員でプロセス全体をマッピングし、ボトルネックを見つけ、それを解消することに関心を集めるのです。そうすれば「なぜできないか」ではなく「どうすればできるか」という議論展開になります。
そういうお話をしたところ、先生方は「いえ、ボトルネックははっきりしています。われわれ執刀医の人数が足りないんです。執刀医の人数は経営上増やせないと言われているから無理なんです」とおっしゃられました。はじめから無理だと思っていたが、上司から言われたので仕方なく議論されていたのですね。
そこで「今の先生方で、理論的にはどれくらいの件数の手術ができますか?」と質問すると、その場で電卓をたたいて「今の2.5倍くらいできる」ということになりました。計算されたご本人たちが「あれっ!?」という意外な顔をされる結果です。
考えてみれば、外科医の先生方の業務にも「雑用」がたくさんあります。会議やペーパーワークがいっぱいある。別にそれらを先生方がやらなくても誰も困らないようなことです。その結果、手術の時間が少なくなっている。実はボトルネックは、先生方の人数ではなくて、時間の使い方だった、ということに気づかれたわけです。
病院は先生方に手術を増やしてほしい、一方の先生方も外科医である以上はもっと手術をしたいという話になり、議論はそこで、どうすれば会議や事務処理の時間を減らし、手術の時間を増やせるかという方向に向かいました。この方向転換にかかった時間は10分くらいです。念のためにお話ししておくと、このとき私に解決策が見えていたわけではなく、ただ議論のよりよい方向性がわかっていただけです。
この事例はファシリテーションの効果を端的に表すものとしてよく紹介するのですが、この短いケースには、それ以外のいろいろな組織――企業や非営利組織、自治体など――にも活かせるノウハウがたくさん含まれていると思います。
しかし重要なことは、単に答えが見つかるだけではなく、当事者が自分たちで解決策を見つけることで内発的な動機づけ、つまりやる気が発生することです。これはひょっとすると解決策が見つかること以上に重要かもしれません。