ファシリテーションとは
議論の生産性を高めるインフラ

──とてもわかりやすい例ですね。司会者のように議事進行をスムーズに行うだけでなく、場をコントロールし、参加者の前向きな発言を促し、議論の成果を最大化するのがファシリテーターの役割の一つと言えそうですね。

 そうですね。言ってみれば、ファシリテーションはコミュニケーションのインフラ的な役割を果たしているので、人と人が関わる活動のほぼすべてに有効なスキルだと思います。

 ちょっと余談になりますが、臼井隆一郎さんの『コーヒーが廻り世界史が廻る』(中公新書)というご著書には、「フランス革命はコーヒーハウスがなければ起こらなかったかもしれない」という趣旨のことが書かれています。

 コーヒーハウスは1652年にロンドンで誕生しましたが、1683年には3000店、1714年には8000店に達したそうです。この数がどれくらい多いかですが、現在東京の人口は1300万人で喫茶店が約7000店あります(2014年、総務省統計局)。一方、当時のロンドンの人口は60万人にも満たなかったので、8000店というのは人口あたりで換算すれば東京の20倍以上になるわけです。

 なぜそれほどまでコーヒーハウスの人気が高まったのかにはいろいろな歴史的・経済的な背景があるのですが、それはさて置き、お酒を飲まないコミュニケーションの場を公に提供したことの意義は非常に大きかったようです。そこで階級を超えていろいろな人たちが様々なことを話し合い、そこから新聞が生まれ、郵便制度が生まれ、株式取引所が生まれ、さらにはロイドのような保険会社まで生まれました。

生産性の高い議論にファシリテーションが欠かせない理由ファシリテーションを学ぶ人たちのバイブルとなっている森氏の代表作『ザ・ファシリテーター』『ザ・ファシリテーター2』、最新作の『ストーリーでわかるファシリテーター入門』(いずれも小社刊)。

 ロンドンから約30年遅れてパリでもカフェが急速に普及していき、そこで啓蒙思想が生まれ、フランス革命につながったということです。コーヒーハウスがフランス革命を起こしたかどうかは私にはわかりませんが、コミュニケーションを活発にしたのは確かだろうと思います。

 そこからファシリテーションに話を戻しますと、人々にコミュニケーションの場が与えられたとして、その場を生産的なものにするのがファシリテーションなのです。人々がただ集まって話し合っても成果は限られてしまうでしょうが、ファシリテーションのスキルを活用すればそれを格段に高めることができます。

 日本でも多くの方々がファシリテーションのスキルと考え方を深いレベルで理解することにより、ビジネスの成果は大きく変わっていくでしょうし、社会の民度も確実に上がっていくと思いますね。

(写真撮影:宇佐見利明)

※次回へ続く