優秀なエリートには共通点がある。彼らは「真面目に、我慢して、一生懸命」ではなく、「ラクして速く」をモットーに、効率よく結果を出し続けている。まじめさと仕事のパフォーマンスは比例しない。24年間で5万人以上のクビ切りを手伝い、その一方で、6000人を超えるリーダー・幹部社員を選出してきた松本利明氏の新刊、『「ラクして速い」が一番すごい』から、内容の一部を特別公開する(構成:中村明博)
人事コンサルが教える
「根回し」の真髄
対立したとき、真正面から争うのは得策ではありません。現実世界では対立したとき、「100:0」の圧勝はなく、こちらも大きなダメージを負います。
とはいえ、手間暇をかけ、神経をすり減らし、誰もが反対しない総花的な内容に仕上げることが会社にとって本当に有益なのでしょうか?
根回しの目的を間違えてはいけません。玉虫色の提案ではなく、会社全体で価値を生む提案をつくるのが目的です。根回しの真髄は、相手を抑え込むことではなく、相手も勝たせ、さらに味方になってもらうことです。
そんな夢みたいなことができるのでしょうか?
はい、簡単にできます。「共通の敵は何か?」を探り、見つければいいのです。共通の敵が見つかるだけでわだかまりがなくなるのです。こんな対立を見たことはありませんか?
・営業部門「物が悪い」
・製造部門「営業がダメだから売れない」
営業や製造、どちらが悪いかということを客観的に分析し、犯人探し、粗あら探しをしても不毛なだけ。そんなことに時間と労力をかけてもムダです。
ライバル会社を「敵」にしてはいけない
共通の仮想敵を設定する方法は簡単です。主語を「対立先」から「本質的な相手」に変えるのです。
共通の敵として、「ライバル会社」を設定する人がいるかもしれませんが、結局は、ライバル会社との比較になるので、「安さ」「品質」「メンテナンス」など、相手の部署がライバルより劣っているという話になりがち。対立構造は変わらないままです。
営業と製造の共通の敵は「お客様が困っていること」です。お客様が本質的に困っていることなら、営業と製造がタッグを組んでどう解消するかという「共同作戦」が練れるようになります。
つまり「本質的な相手」は、往々にしてタッグを組んで貢献する相手になります。例えば製薬メーカーなら、患者や病気が「本質的な相手」になるでしょう。
主語を変えると目的が変わります。主語が対立先だと、「潰す」「妥協する」などが目的になってしまいます。しかし、主語が本質的な相手なら「勝たせる」「喜ばせる」「助ける」が目的となり、思考が瞬時に切り変わります。
魔法のひと言「そもそも」
切り出し方は簡単。「そもそも論」を持ち出すのです。「確認だけど、そもそも今の議論の最終目的は……だったよね?」と持ちかけましょう。人の脳は、自分が話すときは1つのことしか考えられないように設計されていますが、相手が話しているときは、他のことを考えることができます。
対立状態にあると、「意見を潰せそうな論点や根拠はないか」と、反論を考えながら話を聞くものです。しかし、「そもそも共通の目的は?」のひと言で、相手は共通の目的を考えだし、反論を頭の中から追い出すことができるのです。
もしそれでも意見が合わないときは、ソラ・アメ・カサ(前回記事参照)で確認してみましょう。
同じソラ(根拠にしているデータ)を見ているか、どうなりそうかの読みや洞察が同じアメかを確認すれば、おのずと目線は共通の仮想敵に向かうものです。
対立したときは「共通の仮想敵を設定し、その倒し方」を考えると、建設的に物事がラクに速く進んでいきます。議論が対立して過熱しそうになったら、エキサイトする前に、さりげなく「そもそも論」で怒りや対立の矛先を変えます。そうすれば、根回しの負荷は半分、効果は2倍になることを約束します。