こうしたことを考慮せずに単純に足した「9時間37分」を「実労働時間」として示し、実数値である裁量労働の「1日の労働時間」と同列に比べるのは明らかに「不適切」だ。厚労省は、そう認めて謝罪した。

 足し算をしたのは、当時の厚労省の担当者だったといい、「手元にあるデータの中で比較しようとした。担当者は比較可能なデータだったと思っていた」と、厚労省幹部は釈明する。

 このデータは、当時の担当課長と担当局長の決裁も通っている。

「不適切」データを
3年間、使い続ける

 民主党の部会にこのデータが示された約1週間後の15年4月3日に、政府は法案を提出した。

 民主党の部会に示されただけなら、問題はここまで大きくはならなかったかもしれない。

 しかし、政府は、このデータをその後、国会答弁で使い始めた。

 法案提出から約3ヵ月後の15年7月31日、衆院厚生労働委員会で、民主党(当時)の山井和則議員の質問に、当時の塩崎恭久厚労相は、こう答弁した。

「平均時間でいきますと(中略)裁量労働制だと9時間16分、一般労働者でいきますと9時間37分ということで、むしろ一般労働者の方が平均でいくと長い」

 安倍首相が1月29日に答弁した内容と全く同じ答弁を、3年前に厚労相が国会でしているのである。

「裁量労働は長時間労働を助長する」という野党の指摘に反論するためのデータとして使っている文脈も全く同じだ。

 17年2月の衆院予算委でも、塩崎厚労相は、同じデータを再度使って「裁量労働制で働く方の労働時間は、一般労働者よりも短いというデータもございます」と答弁している。

 15年に国会に提出されたこの労働基準法改正案は、裁量労働制と同時に盛り込まれた「高度プロフェッショナル制度」とともに、「残業代ゼロ法案」と野党から批判され、国会審議に入れないたなざらしが続いた。