よくある議論は、負債項目の利益剰余金が、アベノミクスのもとで、115兆円も増えており、直近の残高は389兆円にまで膨らんでいることへの批判だ。

 企業は内部に金をため込んで、従業員への分配や投資に使っていないというわけだ。

 利益剰余金は全て現預金で保有されているのではなく、なんらかの資産でも保有されているから、利益剰余金だけでそれを判断するわけにはいかないが、ある程度、変化の大きい資産項目を見てみると、確かに流動資産項目のうち現預金はこの間、57兆円増えている。

 流動性比率が高まっているとの批判は、間違いではない。

 しかし、注目すべきは、同じ期間、それ以上の勢いで固定資産項目のうちの株式が89兆円も増加していることだ。

 この固定資産項目に計上されている株式の取得は、短期間の売買目的の有価証券投資ではなく、企業を買収した際の株式の取得が簿価で記されている。

 買収先の企業が国内なのか、海外なのかは、この統計からは読めないが、国をまたいだ資金の出入りを補足できる国際収支統計で見ると、日本から国外への直接投資が増えている。

 資金力のある企業が海外の企業を買収する勢いが強まっていることは明らかだ。

 キャッシュリッチな企業は自己資本を投下し、さらにM&A資金を金融機関から調達しながら事業を拡大する動きが大企業中心に増えている。

 企業にとっては、市場の成長性や金利などが高い海外のほうが国内よりも投資利回りが相対的に高いとの判断だろうし、この基調は今後も変わらないと思われる。

 だが一方で、その分、国内では、設備投資が伸びないことで関連企業の売り上げも伸びないし、雇用も増えそうにない。

 かつてのように企業の投資が、雇用を生み、賃金が上がって消費が増えるといったメカニズムは働かなくなる。それどころか、海外で買収した企業や事業部門が伸びるとなれば、国内で展開している事業を縮小し雇用を減らすということがより加速する恐れもある。