90分間を通して感じたのは、むしろ今後へ向けた手応え。自ら掲げた『一戦一生』の精神から、笑顔を輝かせながら「34分の1ですから」と、全34試合を戦うひとつを終えただけと強調した。

「決して強がりでも何でもなく、負けて悔しいということはありません。平昌冬季オリンピックを伝える報道の中で、『敗者が勝つ人を育てる』という記事を読みました。確かリュージュの競技で、金メダルの大本命ながら銅メダルすら取れなかった選手が、満面の笑みでメダリストを称えていた、と。

 だからこそ、勝ったベルマーレさんには拍手を送らなければいけません。こういうことを通して、人生というものを勉強していくんです。そういうことを監督や選手、クラブ、そして県民の皆さん全員が考えられるようになった時に、V・ファーレン長崎はすごいチームになるんじゃないでしょうか」

一番大事なのはプロセス

 6年目の指揮を執る高木琢也監督や選手たちへ余計なプレッシャーをかけてはいけない、との思いからJ1元年の目標は封印している。ただ、昇格を決めた直後に「来年も奇跡を起こして、ゼイワンで優勝争いがしたい」と語った思いはいまも変わらない。

「僕の解釈では、目標は高く持っていい。一番大事なのはプロセス。勝つこともあれば、もちろん上手くいかないこともあります。目標へ向けて、どこまで一生懸命に向かっていけるチームにできるかどうか。そのなかで監督、選手、すべての人の力がついてくるので。

 Jリーグというより、スポーツ全体の魅力って本当にいいですよね。すでに言い尽くされていることですけれども、やっぱりスタジアムの空気に触れた瞬間に、その場にいるすべての方を笑顔にさせることが、スポーツの本当の使命だと僕は思っています。

 それは勝ち負けだけでは生み出せません。もちろん勝ち負けも同時進行で必要ですけれども、明日から仕事を頑張ろう、また見に来ようという世界をJリーグ全体の中で作り出せた時に、サッカーは野球を超えるかもしないと、僕は勝手に思っているんですけどね」

 未知の世界へ飛び込んだ高田社長が誰よりもサッカーを楽しみ、サッカーが持つ可能性に心を躍らせている。3日はサガン鳥栖を迎えるホーム開幕戦が、10日には浦和レッズを再びホームに迎える。

「ファンやサポーターの方々の声援があれば、サガン鳥栖さんであれ、浦和レッズさんであれ、十分に面白い試合ができるんじゃないかと思っています」

 Jリーグの歴史を振り返れば、昇格組のほとんどが厳しい戦いを強いられてきた。12月1日の最終節まで続く長丁場のJ1戦線で、波瀾万丈に富んだビジネスの世界を勝ち抜いてきた高田社長の心からの笑顔が、V・ファーレンが前へ進んでいく羅針盤になる。