生徒同士の声の掛け合いの風土が「いい音」をつくる
活水吹奏楽部では、上手な生徒がそうでない生徒に声を掛けて、指導することが日常です。
指導といっても、手取り足取り教えるわけではなく、「こういうふうに吹くんだよ」と手本を見せてあげ、そして「じゃあ、吹いてごらん」と吹かせます。すると不思議と上手な生徒が出すような音に近づいていきます。
一方で、教えるほうの生徒も、人に教えることによって上達していきます。
よく驚かれるのですが、活水吹奏楽部では、下級生が上級生に教えることもあります。とくに就任1年目のときは、上手な1年生が入部してきたこともあり、そういった風景が多く見られました。みんなで上達するために、「上手な下級生に学ぶのは決して恥ずかしいことではない」ということを浸透させていきました。
ただし、そのためには生徒たちの考え方を改めさせる必要があります。なぜなら、「ひがみ」や「ねたみ」のもとになるからです。
生徒同士で教え合うことの、何よりも大きなメリットは、「アドバイスやノウハウが部内に蓄積される」点にあります。
活水吹奏楽部は、私の赴任4ヵ月目に出場した長崎県吹奏楽コンクールで金賞を初受賞。九州吹奏楽コンクールも突破し、一気に全国大会へと駆け上がりました。
その印象からか、「私の赴任直後にぐっと上手になり、あとは横ばい」と思われている方も多いのですが、実際には1年目より2年目、2年目より3年目のほうが確実に上手になっています。
その下地となっているのが、「生徒同士で教え合う」という文化なのです。
吹奏楽部は学校の部活ですから、当然、メンバーが毎年変わります。
上級生は卒業していきますが、しかし、上級生からの的確なアドバイスは、代々受け継がれていきます。メンバーは入れ替わりますが、アドバイスやノウハウは蓄積されていくのです。
上達に必要なのは、指導者による指導ばかりではありません。むしろ、生徒同士の教え合いこそが、うなぎ屋の「秘伝のたれ」のように、それぞれのバンド独特の味をもたらしてくれるのです。
また、活水吹奏楽部は中学と高校が隣同士で練習をしていることもあり、中学生に高校生が教えることも日常風景です。中学生に教えることで、先輩の高校生も「中学生にはられない」という気持ちになります。
うまい生徒のいい音を聞いているから、みんなどんどん上手になる。そして上達するのが楽しいから、どんどん練習する。その風土が醸成されています。