自分でないと分からないことばかりだから、いいです。戻ったら、自分で対応します。

 有田が担当しているプロジェクトは、ある取引先企業の社内システムの構築である。取引額が大きいため、チームで請け負っているものの、実際には有田一人がメインで担当し、他のメンバーは指示された作業のみ行っていた。取引先からは「3月までには何とかしてもらわないと、損害の請求も検討する」とプレッシャーを掛けられていたのだった。

 植田は有田の直属の上司だったが、プロジェクトに関しては有田しか把握できていない。「進捗はどう?」と尋ねても、「大丈夫です!間に合いますから」と言われると、それ以上何も言えない。有田のことだから、大丈夫だろうと思っているが、3ヵ月の遅れは気になる。「出勤したら、詳細を確認しなくては……」と植田は心配していた。

突然の退職の申し出に
上司はパニック!

 1週間後の月末、有田から植田にメールが入った。

 すみません、休んでいる間にいろいろと考え、2月末で退職します。親の具合も悪いので、今日から有給消化します。退職届は、後で郵送します。

 植田は突然のことに驚き、慌てて有田に電話したが、繋がらない。

 とにかく、話をしよう。

 植田は有田にメールを送ったが、返信はなかった。

「引き継ぎもしないまま、突然退職するなんて社会人としてあり得ない!」

 次第に怒りが込み上げてきた植田は、有田の有給日数と引き継ぎに関するルールを人事に尋ねた。人事は、就業規則には「退職(*)の場合は、1ヵ月前までに退職届を提出すること」とあるだけで、引き継ぎのルール(**)については記載がないという。有田の有給は20日ちょっとあり、2月いっぱい有給消化することは可能だとのことだった。

「退職にあたり、引き継ぎをしないまま有給消化をすることは認められるのか?こちらは有田担当のプロジェクトが進まないので困っているというのに……」

 疑問に思った植田は、知り合いの社労士に相談すると、社労士は以下のように回答した。

 有給休暇は事業主側に「時季変更権」(労働基準法第39条5項)というものがあり、従業員が指定してきた希望日に休むとなると、会社の正常な運営に大きな支障が出る場合は、会社が日にちを変更する権利がある。しかし、退職日まで有給休暇を使うとなると、事実上日にちを変更することができないので、その場合、時季変更権は使えないという。

(*)基本的には退職の申し出があって、会社が承認すると退職日が決まる。退職の申し出は、本件のようなメールの場合も法的には有効であり、書面と同様に確実な証拠となる。
(**)本件のようなケースで、就業規則に引き継ぎに関するルールが記載されていた場合でも、「引き継ぎが残っているから有給使用は認められない」というのは、法の趣旨に反する。引き継ぎを行わずに退職をした場合、退職金の減額等のペナルティーは検討できるだろうが、有給休暇の使用を拒否することはできない。