素性を隠して参加する
演習には効果がない

 純粋に疑問に思って、そのわけを聞いてみると、プライバシーマークを取得している会社として、厳格な運営をしているのだという。言われてみれば、名刺の大部分を指で隠したり、社名を伝えたりする代わりに、なぞかけのような説明をすることは、ある意味、匿名加工情報にして伝える努力をしているようにも思える。

 確かに、個人情報保護法の要請以上に厳格な運営をしていけないことはないし、立派な取り組みと言えると思い、敬服もしている。一方で、営業活動に少なからずブレーキがかかっていると言わざるを得ない。

 私は、不特定多数の企業のマネジメント層から現場まで、さまざまな役職の参加者を対象に、月に2~3回、セミナーを実施している。初めてセミナーを主催してくれる機関から、事前の打ち合わせで必ず言われることは、「個人情報保護の観点から参加者名簿はお出しできません」ということだ。

 そこで、私が必ずといっていいほど依頼することは、「セミナー参加申込用紙に記入した個人情報は、主催者ならびに講師がセミナー用途のみに用います」と、参加者情報を講師にも共有される旨を明記してもらうことだ。このことに承諾してセミナーに申し込んでいただくのだ。

 このやりとりの中で、主催してくれる機関から、次のように言われたことがある。「他の講師には、参加者情報を開示していません」、「参加者の中には、身元を隠して参加したい人もいる。そうした人に配慮したいので、講師に共有することは難しい」という意味のことだ。

 参加者がどこの会社の誰であろうと、職位が何であろうと、一切に気にしないで、関心も持たないで、決められた話を淡々と話す講師もいるのだろう。しかし、私は、講義や解説を極力しないで、参加者との問答により進行し、ほとんど演習だけで構成する能力開発プログラムを実施している。その際、どこの誰で、どういう背景で参加しているかによって、問答や演習を調整しなければ、効果の高い学びにはならないと考えている。

 従って、もちろん私の素性も明かすし、参加者の属性も可能な範囲で開示していただくことにしているのだ。

 身元を隠して参加したい人も、恐らく稀だろうが、いるかもしれない。それを無理に聞き出そうとすることはもちろんしない。ただ、参加者同士で演習する際に、一方が身元を明らかにしないで演習すると、その参加者全体の演習効果は高まらない。よって、身元を明かしたくないという方には、参加を見合わせていただくことにしている。