「ペットボトルの水も、ホワイトボードも用意できませんね」
わが国に20社の傘下会社を有するグローバル・エクセレントカンパニーT社で、グループ企業を統括する月岡人事統括部長は、こう言い放った。
T社から、ミドルマネジャーのコーチングスキルなどを高めるプログラムを実施してほしいとの依頼を受け、スキル向上のロールプレイングや話法の訓練を繰り返し行う研修を実施する際の出来事だ。スキルアップのための自己成長エンジンを埋め込み、そのハンドルの仕方を体得する仕組みで、特に組織再編成前後の能力向上・組織向上プログラムとして有用だ。
水を出せない!ホワイトボードを運べない!
言い訳ばかり並べる人事統括部長
ロールプレイングやグループ討議主体のプログラムゆえ、T社での実施準備にあたっては、参加人数分のペットボトルの水と、ホワイトボード4台の準備を能力開発課長へ依頼しておいたのだが、実施日1週間前になって、いずれも準備できないとの連絡が入った。どうしても必要ならば、能力開発課長の上司である月岡人事統括部長へ、私から直接依頼してほしいと言う。
大したことを要求したつもりはなく、戸惑いながら月岡人事統括部長に手配をお願いすると、「用意できません」とさらりと言う。
理由を問うと、山ほど答えが返ってきた。「前例がない」、「人事統括部長(つまり、自分のことだ)が参加する会議には水を出すが、それ以外の会議やトレーニングには水を出さない」、「演習の依頼はしたが、当社のルール内で実施してもらいたい」、「予算がない」、「水を買いに行かせる時間がない」、「水の運び手がいない」ということであった。
ホワイトボードについても、「会場の会議室に、ホワイトボードは4台ない」、「別の会議室を予約した方に失礼なので、別の会議室からは運べない」、「別の会議室を、ホワイトボードのためだけに予約できない」、「別のフロアから持って来いといっても、エレベータに入らない」、「斜めにすればエレベータに入るとしても、人事統括部の社員に、怪我のリスクを負わせられない」……。
黙って話を聞いていて、頭がクラクラしてきた。まだ子どものおつかいの方がマシだ。