拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。第42回の講義では、「技術」に焦点を当て、拙著、『ダボス会議に見る世界のトップリーダーの話術』(東洋経済新報社)において述べたテーマを取り上げよう。
「ノーベル賞」を掴んだ情熱的スピーチ
彼のスピーチは、いつも、エンディングに向かって、熱くなっていく。
アル・ゴア。アメリカ元副大統領。2007年のノーベル平和賞受賞者。
彼のスピーチは、ダボス会議でも何度か聴いているが、実は、TED会議でも、何度か聴いている。
そのスピーチの内容は、多くの人が知るように、地球温暖化について警鐘を鳴らすものであり、2007年のアカデミー・ドキュメンタリー賞を受賞した映画『不都合な真実』でも、彼のスピーチやプレゼンテーションを観た人は多いだろう。
それは、科学的データを示しながら、論理的かつ説得的に地球温暖化の脅威を聴衆に伝えていくスタイル。このスタイルでのスピーチやプレゼンテーションを、世界中で千回を超え行って回ったことが、彼にノーベル平和賞をもたらしたのであるが、実は、彼がこうしたスピーチを非公開の昼食会などで行うときには、一つの特徴がある。
エンディングに向かって、いつも、熱くなっていくのである。
例えば、地球温暖化の進行とその問題の深刻さを、客観的データを示しながら語った後、エンディングに向かって彼は、こう熱く語る。
「もう、我々に残されている時間は、長くはないのです!」
その危機感に溢れ、訴えるような彼の熱いメッセージに、思わず、それを聴いている人々も、その思いに共感し、主旨に賛同し、その場には、しばしば感動の波が生まれてくる。
しかし、その彼のスピーチに、著者も一人の聴衆として共感し、賛同し、感動しながらも、一方で、もう一人の自分が、彼のスピーチを見ながら、こう感じている。
彼の情熱的なメッセージは、素晴らしい。しかし、実は、アル・ゴアは、冷静に、この「情熱的なメッセージを語る人物」を演じている…。