フェイスブック、マイクロソフト、ゼネラル・エレクトリック、グーグル、アル・ゴア氏、ツイッター、TED、アドビ、シスコ、HP、ノキア……。日本でも知らぬ人はいないほどの名前ばかりだが、実はここに挙げた企業・人物には、プレゼンテーション制作の手ほどきをある人物に依頼しているという共通点がある。
その人物こそがナンシー・デュアルテ氏。シリコンバレーを拠点にプレゼンデザインの分野で20年以上にわたって第一線に立ちつづけ、まさに世界的オピニオンリーダーたちを陰から支えてきた立役者だ。
今回、多忙な業務の合間をぬって快くインタビューに応じてくれたデュアルテ氏。興味深い彼女の仕事ぶりや、アル・ゴア氏の『不都合な真実』制作秘話、さらには私たちにも役立つプレゼンのコツをうかがった。
(インタビュアー/大野和基)
アル・ゴア氏と共に制作した『不都合な真実』の舞台裏
――あなたの会社はいわゆる「プレゼンテーション・デザインファーム」と呼ばれています。日本には、プレゼンに特化した業態はまず見かけません。
デュアルテ・デザインCEO。同社は20年以上にわたりプレゼンテーションの制作・デザインを専門にする世界でも数少ないエージェンシーのひとつであり、シリコンバレーでも有数のデザイン会社である。クライアントにはフェイスブック、マイクロソフト、ゼネラル・エレクトリック、グーグル、アル・ゴア氏、ツイッター、TED、アドビ、シスコ、HP、ノキアなど数々のグローバル企業・団体や著名オピニオンリーダーたちが名を連ねる。先ごろ邦訳が刊行された著書『ザ・プレゼンテーション――人を動かすストーリーテリングの技法』が好評。
www.duarte.com
私が知るかぎり、日本には存在しませんね。オーストラリアにも同じような会社がありますが、規模ははるかに小さいです。ブラジルの会社もひとつありますが、できたばかりです。我々はこの業種では世界最大の会社です。
従業員数は106人で、クライアントは200社以上あります。フェイスブックやマイクロソフト、GE、グーグル、アル・ゴア氏、ツイッター、TED……世界的なトップブランドとお付き合いしています。
――アル・ゴア氏といえば、ドキュメンタリー映画『不都合な真実』が2007年にアカデミー賞で最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞しました。あのプレゼンもあなたが手がけたのですか?
ええ。ゴア氏は私たちのオフィスを頻繁に訪れ、私たちと共同であのプレゼンを制作したんです。ときには、多忙なゴア氏のジェット機に私たちも同乗して機内で作業したりもしましたよ。完成までに5年ほどかかりました。
これはあまり知られていないようですが、ゴア氏はあのドキュメンタリー映画『不都合な真実』の製作に至る前の3年間ほど、環境問題に関するプレゼンを、アメリカ国内のみならず世界各地で行っていました。
同じプレゼンを何回も行っているうちに、ゴア氏は内容を熟知し、細かな改良を重ねていったので、いざ映画化が決まったときにはとてもスムーズな流れで製作することができました。
ゴア氏は『不都合な真実』を制作するにあたり、聴衆が今までに見たこともないような、目新しい画像をスライドで表現したいと言っていました。非常に注文が多くてクオリティに厳しい人でしたが(笑)、とても楽しい仕事でした。
映画が公開された後も2~3年は、ゴア氏のプレゼンテーション全般を私たちがひきつづきサポートしました。海外でプレゼンを行うときは、その国の言語でスライドをつくるなど翻訳も担当しました。
――ゴア氏に限らず、クライアントからの依頼があると、どのようなプロセスで仕事を進めるのですか?
規模の大きな仕事を依頼されると、まず「creative discovery session」と私たちが呼んでいるセッションを行います。クライアントの会社から3~5人、我々の会社から2~3人が参集して話し合いながら、共同でプレゼンの構成を練り上げていくんです。
構成ができあがると、またクライアントと我々とが集まって、プレゼンに不備がないか、伝わりづらい点はないかを検証していきます。玉ねぎの皮むきのようなものですね。1枚ずつ、すべての皮をいったんむいて検証し、それをまた1枚ずつ組み立てていくわけです。
そこまでできたら、ハリウッドの映画製作のように手書きで絵コンテを書きながらプレゼンの視覚的要素の細部を詰めていきます。この状態でクライアントから承認が下りれば、絵コンテをもとにプレゼンのスライドをデジタル化して完成です。