型破りなマネジメント手法

 人間はだれしも慣れ親しんだものにとらわれている。初代〈iフォーン〉、J. K. ローリング(ハリー・ポッター・シリーズの作者)が描いた魔法使いの世界、レディー・ガガの生肉ドレスなど、目にしたり触ったりしない限り想像できないものは多い。組織についても同じである。

 以下のような組織を思い描くのは難しいのだ。

●上司なる者がいっさいいない。
●同僚との相談を通して各自の責務を決める。
●全員に支出権限がある。
●仕事に必要な道具をだれもが自分で手に入れなくてはならない。
●地位に伴う肩書きも昇進もない。
●同僚の判断に基づいて報酬額を算定する。

 「ありえない」と思うかもしれないが、そんなことはない。これらは、とある資本集約的な大企業の特徴なのである。この企業では、各地に散在する工場に1時間当たり数百トンの原材料が運び込まれ、厳格な基準に沿って何十もの加工処理が行われている。フルタイム従業員400人の力で7億ドル超の売上げを稼ぎ出している。ちなみに、この型破りな企業はグローバル市場に君臨している。

 皆さんはおそらく信じられない思いだろう。私もそうだった。だから、この企業、ザ・モーニング・スター・カンパニーの評判を耳にした時は、1も2もなくカリフォルニア州サンホアキンバレーの工場を訪問させてもらうことにした。

 ピザ、ケチャップのたっぷりかかったハンバーガー、トマト・ソース・スパゲッティなどを食べたことがある人なら、モーニング・スターの製品を消費した経験があるはずだ。カリフォルニア州サクラメント近くのウッドランドに本社を置くモーニング・スターは、世界最大のトマト加工業者であり、アメリカの年間加工量の25~30%を扱っている。

 1970年に当時カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のMBAコースに在席していたクリス・ルーファー(現社長)により、トマト輸送を手がけるために創業されたのが発端である。現在では3つの大工場でトマトを加工処理している。

 顧客が指定するレシピは合計で数百種類に上り、おのおの細かい点で異なる。大口向け製品のほかに缶入りトマトを製造して、スーパーマーケットやレストランなどに納めている。くわえて、年間200万トンを超えるトマトを運ぶ輸送業、トマト栽培といった事業も傘下に置いている。

 ルーファーによると、モーニング・スターはこの20年というもの、取引量、年商、利益とも2桁増を続けてきたという。かたや業界全体は平均年率1%の成長に留まっている。非公開企業であるため財務業績を開示していないが、成長資金をほぼすべて自力で賄っているといわれており、そうだとすると収益性はきわめて高いことになる。独自のベンチマーキング・データを基に、世界一効率のよいトマト加工業者を自任している。

 モーニング・スターはよい意味での「逸脱した企業」(positive deviance)だといえる。事実、これほど素晴らしい変わり種に出会った経験はほとんどない。

 従業員(モーニング・スターの社内用語では「同僚」)の裁量の大きさは唖然とするほどだが、にもかかわらず彼ら彼女らは、あたかも綿密な振り付けに合わせて踊るダンス・グループのように、結束して仕事に当たっている。モーニング・スターの独自のマネジメント・モデルを支える原則や慣行を掘り下げると、マネジャー層を抱えることによる弊害を避けるか、せめて軽減する方法を学ぶことができる。