自由が成功をもたらす

 モーニング・スターの風変わりだが効果的なマネジメント・モデルの核心には、「自由」というシンプルな概念がある。

 ルーファーは「自由にしてよいなら、人々は『これを好きになりなさい』と説得された対象ではなく、本当に好きなことに引かれるでしょう。すると成果が上がるから、さらに熱を入れますよね」と述べている。従業員たちも同じような意見を持っており、ある人は「命令に沿って動くのでは機械と変わらないでしょう」と言っていた。

 ここにジレンマがある。大規模な事業を舵取りするうえでは時として、人材に機械のように動き、信頼性、正確性、勤勉さを発揮してもらう必要があるのだ。監督者やマネジャーは一般に、ノルマを設け、それを大きく下回る者がいないか目を光らせ、該当者を叱咤する。

 では、監督者もマネジャーもいない場合はどうするのだろう。モーニング・スターでは、従業員同士が約束を交わして優れた協調性を発揮するだろうが、規律ははたしてどうだろうか。統括者のいない組織では、どうすれば手綱を締めることができるのか。

 責任を伴わない自由は無秩序につながる。ところが、モーニング・スターの巨大で複雑な工場のなかを歩くと、無秩序とは逆の状況が目に入ってくる。従業員たちは、あれほどの自由を与えられながら高い成果を上げている。いったいなぜだろう。

明確な目標とガラス張りのデータ

 冬のリゾート地を訪れると、何百人ものスキー客がだれの助けも借りずに急傾斜を直滑降しているだろう。しかし、目の不自由な人が滑り降りるには、だれかから大声で指示を受ける必要がある。自主管理を実践するには情報が欠かせないのだ。モーニング・スターは、自分の仕事ぶりを把握して賢明な判断を下すのに必要な情報すべてを、従業員に与えようとしている。

 CLOUには必ず、里程標が細かく記される。それを拠り所にすれば、同僚のニーズにどれだけ応えているかを各自が確かめられる。くわえて、事業部ごとの詳しい収支が月に2回、全従業員に公表される。「同僚が責任を果たしているかどうか互いに注意を払おう」という意識が植えつけられているため、支出が予想外に跳ね上がったら見過ごされるはずがない。これだけ透明性が高いと、愚行や怠慢はすぐに見つかる。

 モーニング・スターの事業は垂直・水平両方向に統合されているから、全社についての情報がない限り、自分の判断が他の分野にどう影響するかを見極められない。ルーファーは、全社についての同一情報を全員に伝えないことには、総合的な視点での発想は期待できないと心得ている。だからこそ、情報の囲い込みなど起きないし、「(彼または彼女に)なぜ知らせる必要があるのか」といった疑問も持ち上がらないのだ。

計算と協議

 従業員は自分の裁量で社費を支出してかまわないが、ROIやNPV(正味現在価値)を計算するなどして、事業上の妥当性を示さなくてはならない。同僚と協議することも期待されている。

 一例として、300万ドルの投資を考えているなら、行動を起こす前に意見を交わす相手は30人にも上るかもしれない。事業部の給与枠を増やしたい場合も、やはり同僚たちを説得して回らなくてはならない。

 モーニング・スターの従業員は大きな裁量を持っているが、独断を下すことはまずない。他方、アイデアを握り潰す権限を持つ人もいない。ベテラン従業員は、物事を決めつけたり断固たる措置を取ったりするよりも、むしろコーチ役を果たす。大胆な発想をする若手は、何人かのベテラン従業員に助言を求めるよう背中を押される。先輩からはたいてい、「このモデルを使って君のアイデアを分析してはどうか。検討して準備が整ったら、また相談に来てくれ」といった手短な指導があるだろう。

対立の解消と適正手続き

 裁量の濫用、恒常的な成果不振、同僚との喧嘩などには、どのような対処がなされるのだろうか。モーニング・スターには、対立を収拾する役回りのマネジャーはおらず、だれも「こうしろ」と強制する権限を持たない。商取引の当事者間で衝突が起きると、調停や裁判で決着をつける場合が多いが、モーニング・スターでもこれと似たような仕組みを用いている。

 仮に別の事業部のだれかが私について、「CLOUに記した約束を果たしていない」と考えたとしよう。まずは差しで相手の主張を聞くことになるだろう。こちらの対応としては釈明する、改善を誓う、反論するなどが考えられる。2人だけで解決できなければ、双方が信頼する社内のだれかに仲裁を頼み、その人におのおのの主張を伝えるだろう。

 仲裁者が相手の意見に同調し、私は提案された解決策をはねつけたとする。ことここに及ぶと、収拾を助けるために従業員六人による委員会が設けられ、仲裁者の提案にお墨付きを与えるか、別の解決策を示すだろう。それでも私が納得しないようなら、社長が当事者を集めて双方の言い分を聞き、有無を言わせず判断を下す。ただし、ルーファーの元に問題が持ち込まれる例はきわめて稀である。

 だれかの業績がパッとせず懸念が深刻な場合、解決を模索した末に解雇に至る場合も考えられる。ただしモーニング・スターでは、上司の気まぐれのせいで部下が割を食うことはありえない。この仕組みの長所をルーファーはこう説明する。

 「委員会が開かれれば、公正で理にかなった手順が踏まれることがみんなに伝わりますよね。イザという時にも頼みの綱があるのだと、だれもが知るわけです。当社では、上司の部下いじめは起きないようになっています。だれしも大切な人生があるのですから」

同僚による評価と異議の申し立て

 モーニング・スターの遺伝子には責任感が刻み込まれている。入社時には全員が自主管理の基礎についてのセミナーを受講し、自由や裁量と責任は表裏一体だと学ぶ。相談はいくらしてもよいが、最後は自分の責任で判断しなくてはいけない、という教えである。苦渋の決断を避ける道はないのである。

 年末には全従業員が、CLOU上でつながりのある同僚からフィードバックを受ける。1月にはすべての事業部が前年の業績の妥当性を説明することになっている。1つの事業部について議論するだけで丸1日近くかかりかねないため、全事業部を網羅するには何週間も要する。各事業部のプレゼンテーションは、言わば株主向けの報告のようなものである。経営資源を適正に使っていることを説明し、至らない点については認め、改善プランを示さなくてはならない。

 事業部は業績によるランク付けの対象となるから、最下位あたりを低迷する事業部はあれこれ問い質されるだろう。ルーファーが言う。「投資が回収できていなければ、それ相応の冷笑を浴びるでしょう。今後の投資に際しても、同僚の協力を取りつけるのはきっと難しくなりますよね」。ある従業員も「周りから『浅薄だ』と思われるようなことをしたら、仲間を失いかねません」と語っていた。

 毎年2月には戦略会議があり、これもまた社内評価の機会となる。全従業員を前に各事業部が20分をかけて年間の事業計画を説明する。聞き手たちは「これは有望そうだ」と思う戦略に仮想通貨を投じる。このバーチャル投資で十分な資金が集まらないと、社内からの厳しい視線を覚悟しなくてはならない。

互選制の報酬委員会

 モーニング・スターでは、製造業らしからぬ方法で報酬を決めており、むしろプロフェッショナル・サービス企業に近い。各従業員は年末になると、CLOUで掲げた目標やROI目標などの指標に照らしながら、業績の自己評価を作成する。次いで互選によって地域ごとに報酬委員を決める。毎年、全社で合計八つほどの委員会が設置される。委員会は従業員の自己評価を吟味して、そこから漏れた成果をも掘り起こす。そして、これらの情報を慎重に検討したうえで、付加価値に見合うよう留意しながら1人ひとりの報酬額を決める。