営業担当者向けインセンティブの設計で苦慮している企業は多い。特に、報酬制度を管理コストと見なす財務部門からコスト削減の圧力がかかり、高業績営業マンのやる気を削ぐような設計になっていることも少なくない。
だが一部の企業では、営業担当者を業績に基づいて「花形」「中間層」「落ちこぼれ」に分類し、それぞれに合わせてインセンティブを設計することで、営業部門全体の成績向上に成功している。多数派である中間層は、段階的な目標や、多様な価値観を満たせる表彰制度などで、底上げを図るとよい。成績不振の落ちこぼれには、ボーナスでペースづくりをしたり、さまざまな組織内の圧力を用いたりするとよい。高業績の花形には、販売コミッションの上限撤廃、ノルマ超過分の積極評価、競争心の促進などが有効である。
社内の営業担当者の成績分布を明らかにし、それぞれの違いに配慮したインセンティブを設計すれば、すべての層で成績の改善が期待できる。
財務面を圧迫しない報酬制度を設計する
営業担当役員は、営業チームをやる気にさせるために、創意に満ちた方法を常に探し求めている。
新しいボーナス制度を発表するために大々的なキックオフ・ミーティングを開いたかと思えば、成績抜群の営業担当者に異国情緒あふれる旅行を約束する。売れ行きが芳しくなければ、販売コンテストを催し、販売目標が未達であれば、報酬制度のせいにしてゼロからつくり直す。
一方、財務部門は報酬制度を管理コストと見なしている。それは無理もないことだ。何しろ、ほとんどのB2B企業では、営業担当者に支払う報酬が最大のマーケティング投資となっているからである。
アメリカ企業だけでも、毎年、広告宣伝費の3倍にもなる総額8000億ドルを超える金額が営業担当者に支払われている。そのため、財務部門は当然ながら、コスト管理手法を報酬制度に確実に組み込もうとする。
なかには、定率のコミッション制度を採用し、報酬の支出額を売上高と連動させる企業や、営業担当者が一定の業績目標を超えると、それ以上の報酬は出さない企業もある。さらに、営業担当者のノルマをウォール街が求める売上目標と連動させて、ボーナスで支出額を管理する企業もある(囲み「財務部門が主導権を握るとどうなるか」を参照)。
だが、それぞれ異なるレベルとして注意を向ける必要のある投資ポートフォリオのように営業チームを扱うことで、チームの成績を巧みに押し上げている先進企業も少数だが存在する。
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一部の営業担当者は、他の人たちより能力もやる気もある。調査によって示されているように、業績において「花形」「中間層」「落ちこぼれ」に分類することができ、それぞれ、報酬制度の異なる側面によって意欲をかき立てられる(図表1「営業チームの成績曲線」を参照)。
たとえば、花形はどのような目標でも達成しそうだが、報酬に上限を設ければ働かなくなるおそれがある。逆に、落ちこぼれにノルマを達成させるためには、指導を強化し、尻を叩く必要がある(ムチだけでなく、アメも必要な場合が多い)。
この両者の間に位置づけられる中間層は、適切なインセンティブを与えれば、最も改善が期待できるグループでありながら、最も注意が向けられていない。
それぞれの違いに配慮した報酬制度ならば、すべてのタイプの営業担当者の成績が改善する見込みが高くなる。本稿では、企業がそれを実践して投資収益率を高め、販売成績曲線を上方へシフトさせる方法を論じていく。