英語を社内の公用語とするグローバル企業が増えている。一定のルールなしに複数言語を用いることは非効率的であるから、グローバル競争下においては、社内で用いる言語を統一し、コミュニケーション効率を高めることが不可欠だ。
ただし、英語の公用語化には困難や混乱が伴う。導入を決めても、社員が抵抗する、やる気を失う、運用面で徹底されない、生産性が低下するなどの弊害が生じかねない。
しかし、不安が払拭され、社員が公用語化の意図を納得し、自分の能力に自信が持てれば、言語の切り替えは可能である。企業も語学研修、リーダーの率先垂範などさまざまな支援策を講じることができる。
本稿では、英語の公用語化に体系的に取り組み、成果を収めつつある楽天の事例を中心に、公用語を定着させるためのガイドラインを提供する。
グローバル・ビジネスを阻む言語の壁
準備のいかんにかかわらず、英語はいま、世界共通のビジネス言語となっている。エアバス、ダイムラー・クライスラー、ファーストリテイリング、ノキア、ルノー、サムスン、SAP、テクニカラー、マイクロソフトの北京拠点をはじめとして、社内の公用語を英語とする多国籍企業が増えている。世界各地に広がった部門や事業の取り組みにおいて、コミュニケーションを促進し、業績を向上させるためである。
Tsedal Neeley
ハーバード・ビジネス・スクール助教授。組織行動学を担当。
社内で使用する言語を統一するのはよいアイデアだと感心している場合ではない。もはやそれは必須条件である。たとえば、海外で事業展開しているアメリカ企業や、国内の顧客に特化しているフランス企業も例外ではない。
パリ本社で働く営業担当者が集まって会議を開くとしよう。全員が英語を話せるかどうかを気にする必要はあるだろうか。ないだろう。では、同じメンバーがパリを本拠とする潜在顧客を営業訪問する際に、相手企業が国外の拠点から、フランス語を話せない社員を呼び寄せていたことを知らなかったとしたら、どうだろうか。
これは、私が関係したある企業で実際に起こったことである。このフランスの2社の社員はパリで会議を開いたのに、取引をまとめることができなかった。なぜなら出席者間で意思の疎通が図れなかったからである。この思いも寄らなかった事態に目を覚まされた同社は、即座に英語を社内の公用語とする戦略を打ち出した。
日本最大のオンライン・マーケットプレースを経営する楽天でも、同じような懸念に駆られた会長兼社長の三木谷浩史が、2010年3月に英語を社内の公用語とするよう命じた。