いまやインターネットで買い物をすると、過去の購買履歴に沿って、その人にふさわしい商品を推奨してくれるのが当たり前になった。このようにサービスがパーソナル化される一方で、リーダーシップ教育は依然として画一的なままである。ITのアルゴリズムを利用すれば、すべての人に合った教育プログラムの提供が可能である。
『さあ、才能に目覚めよう』などの著書で知られる筆者は、このような仕組みを開発した。それによって、十人十色のリーダーシップの開発が可能になる。だれもが同じリーダーシップのスタイルを身につける必要はなく、だれもがスティーブ・ジョブズになる必要もない。むしろ、自分のスタイルを磨くことで、ジョブズを超えるリーダーになることも可能なのだ。
本稿では、ヒルトンで実践した例を基に、それぞれに合ったリーダーシップ開発の具体例を紹介する。
十人十色のリーダーシップ
〈フェイスブック〉のあなたのページにログインして画面の右端を見ると、自分に関係のある広告が表示されるだろう。私の場合も同じだ。私のページには、ある高校の1983年度卒業生について調べられるサイトへと誘導する広告が表示される。なぜ1983年かというと、私が卒業した年だからである。なぜ〈フェイスブック〉がそれを知っているのかというと、私が教えたからである。
Marcus Buckingham
強みに基づく技術やプログラムを開発する企業、TMBCの創業者。Now, Discover Your Strengths, Free Press, 2001.(邦訳『さあ、才能に目覚めよう』日本経済新聞出版社)などの著者として知られる。最新の著作はStandOut, Thomas Nelson, 2011。
その広告の下には、有名シェフのゴードン・ラムゼイがロサンゼルスに開いたレストランの広告が出る。なぜなら、そのレストランと同じ郵便番号を持つ地域に私が住んでいることを〈フェイスブック〉は知っているからだ。これも私が教えたのである。
〈フェイスブック〉が広告を大得意としている理由は、最初に「あなたはだれか」を尋ねるからだ。そして、あなたの好き嫌いを理解し、それを参考にあなたのプロフィールに合わせて広告を表示するのである。
〈ネットフリックス〉も同じことをしている。あなたが映画をストリーム再生する前に、ウェブサイト上で「映画クイズ」が出てくる。いろいろな映画を挙げて、それを見たことがあるか、どう評価するかを尋ねるのである。この結果に基づいて、これまでのあなたの好みに沿った映画だけを提案する。あの権威ある『ニューヨーク・タイムズ』紙までもが、あなたに他人と異なるニュースを提供している。もし同紙の電子版を購入しているならば、ネット上で見る紙面の一部分は、推奨エンジンがあなた向けに選んだ記事なのだ。このエンジンは、あなたが過去にどの記事をクリックしたか、さらに、あなたの友だちがどの記事をクリックしたという記録に基づいている。
提供されるコンテンツのパーソナル化はますます普及しつつあり、それがないと違和感を覚えるほどである。個人が特定できる状況であるにもかかわらず、提示される情報が差別化されていないと、奇妙に物足りなく感じるのだ。私もそのような状況を1つ知っている。それはリーダーシップ開発プログラムである。
リーダーシップにはさまざまなスタイルやそれに応じた強みがあるということが認識され始めて10年が経ついまでさえ、そして高い潜在能力を持つ人材の育成を最優先としてきた組織においてでさえ、そこで提供される内容はお仕着せなのである。あなたが受けるリーダーシップ・プログラムは、自分が組織の将来にとって欠かせない人材なのだと教えてくれる。しかし、そのプログラムはあなた自身についてほとんど何も知らないようなのだ。